第32話 1話小さな来訪者(鼻歌はフワフワに)

 出てきたパンケーキは、お店で出されていてもおかしくないのでは? そう思うほどクオリティーが高く。

 メレンゲを泡立てた仕様の、少し高さのあるパンケーキだった。

 これを作るのは結構コツが居ると聞いた事があるあ、実際にどれぐらいの手間なのかは新たには分からない。

「♪~~~、ラ~~~~♪」

 鼻歌交じりに、ご機嫌な感じでミアがこれを作ってくれているため、引け目や負い目などは感じずにホークとナイフを持つ。

「いただきます」

「いただきま~す!」

「はぁ~い、どうぞぉ」

 少し間延びした、柔らかな声でミアが促してくれたので、絵里奈と一緒に食べ始めた。

 どうやら自分の分でも作っているのか、まだこちで一緒に食事をしようとはしないミア。

 パンケーキのお皿には、お店で使うのだろう生クリームとフルーツが盛り合わせてあり、本当に喫茶店のパンケーキといった感じになっている。

 その事に感動しつつ、フワフワのパンケーキにホークとナイフを通せば、スッ、という感じで入っていきすぐに切る事ができた。

 口に運び、噛み締めれば、フワリとした食感と優しい甘さが口いっぱいに昼がる、そこへすかさずカットされたイチゴを口に含めば、更に甘酸っぱさとイチゴの香りが鼻を突き抜け、口全体を幸せの色に染めていく。

「おおお、、凄いな」

 新はこういった女子ウケする食べ物はあまり食べた事がないためとても新鮮である。

 新自身は、このようなパンケーキセットを食べてはみたい。 そう思う事はあったが実際いざ喫茶店へと入れば、女性ウエイターのお姉さんの目が気になり頼めず、だからと言って男性店員が来た時も頼めなかったので、正直夢が一つ叶ったと言っても良い。

「兄ちゃん、クリーム。美味しいよ!」

 子供の力でもパンケーキは綺麗に切れるらしく、とても楽しそうに絵里奈はパンケーキを口に運んでいた。

 その笑顔を見て、今日がこの笑顔を見る事ができなくなる日なのか、そう思うと、暗い顔になりかける。

「どうぞ」

 不意にティーカップに紅茶が注がれ、慌てて横を見ればとてもご機嫌なミアの顔がそこにあった。

 不安にならないで。

 言葉にはしていないがそう言われているような、そんな気がしてならなかった。

 紅茶を飲み一息つくの確認してから、ミアは自分の席に戻って行った。

 慣れている、というわけではないのだろうが、少なくても新よりはこういった経験をしてきているのだろう。

「お姉ちゃん本当にすごいなぁ。私もお姉ちゃんみたいになりたかった」

「大丈夫ですよ。しっかりと手続きを踏んで、転生できれば次はもっと素敵な女の子になれますよ」

「そ、そうなのか?」

 内容が死に関する話なので、新としてはどこからどう話に入れば良いのか迷ったが、幸い何でもない事のように、世間話でもするような感覚で話をしていたので何とか会話に参加できた。

「輪廻転生ってご存じですよね。あの過程で、人の魂は現在の記憶を洗い流し、新たな魂として生まれ変わるんですけどね。現世で成し遂げた事や関わった人との絆や縁は、その人がどれだけ世界と向き合えたかによって次の人生へと引き継げるんですよ」

「何それ。強くてニューゲームてきな?」

「???良く分かりませんが。まれに前世の記憶を持ち越している人が居るのはそのためですよ」

 あ~、と新は思った。

 確かにテレビなどの特集で、前世の記憶を持った人がここに!? などと言う、世界ミステリーなんちゃら、とかいう感じで番組をやっている事があったなぁと思い至った。

 そのミステリーが今ここにと思うと、妙に実感がわかない。

「私、どうなるのかなぁ?」

「それは私にもわかりませんが、絵里奈さんは強い人ですからきっと大丈夫ですよ!」

 根拠のない大丈夫。

 そう新には聞こえたが、絵里奈はその言葉だけで夏に咲くひまわりの様にパーと華やかな笑顔をミアに向けていた。

 それを横目に見つつ新は最後のパンケーキを口に入れ。

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