第31話 1話 小さな来訪者(アップルティーと笑顔とパンケーキと)
翌朝。
暗闇から意識が浮上するのを感じ、心地よい目覚めとともに朝を迎える。
「あ、あれぇ?」
目を開けると新は大きなベッドに大の字で横になっており、ミアの姿も絵里奈の姿もない。
「絵里奈?!」
昨日の件もあり、何かあったのではないだろうか?!
そう思ったとたん、慌てて上半身を起こした。
「あ、お兄ちゃん起きた!」
慌ててベットから這い出て、探しに行かなければ、そう思っていた矢先にドアが開きそこから可愛く小さな頭が顔を出す。
新が起きている事を絵里奈が確認すると、トテトテと音を立てて走り寄ってきて新めがけてタックルする勢いで胸に飛び込んだ。
新はその勢いで腹部に衝撃を受け、多少呼吸ができずにむせた。
痛みと呼吸が一時的にできない事で焦ったが、その痛みと焦りを絵里奈に気が付かれまいとするように、彼女の柔らかく毛先が細いサラサラとした髪の毛を撫でる。
するとくすぐったそうに身をよじり、ねこが甘えてくるように、もっとしてぇ、という感じで額を新の胸にこすりつけてきた。
新もまんざらではなく、絵里奈の頭をゆっくりと撫でる。
気持ちよさそうにしている絵里奈が、そうだった、と良い少し怒った顔をしながら新を見る。
「あ、頭なでなでください。ご飯です!」
「ああ、なるほどご飯か。今行く」
なんとか誤魔化しキレたらしくほっとする新。
内心では、さっきの焦りや、心配していたのが本人にバレるのではないかとひやひやしており、何をどうしたらバレないのかなど色々頭の中で思考を巡らせ続けていたため、気が気ではなかった。
絵里奈が離れ、新も着替えてリビングに向かう。
ドアを開けてすぐ、鼻をくすぐる甘い香り。
それと同時に紅茶の花の香りも混じり、朝から少し高級な喫茶店にでも着た気分になった。
「なぁ、何作ったんだ?」
流石に気になり、キッチンでシスター服に白いフリルの付いたエプロンを着たミアに声をかけると、フライ返しを手に振り返る。
「パンケーキですよ。絵里奈さんのリクエストです」
「パンケーキ、パンケーキ!」
非情にテンションが高い絵里奈。
絵里奈の期待に今こそ答えねば、というのが顔に書いてあるミアの自信に満ちた顔。
「朝からテンションたけぇ~」
二人のテンションの高さに若干押され気味の新ただったが、それでも楽しそうにしているのでこれはこれでありかなぁと思う事した。
席に着くと、少し火を止め、紅茶を注いだティーカップを新の前に出した。
「アップルティーにしました。冷えた胃に丁度良いですよ。あまり急ぎ過ぎず、ゆっくり飲んでください」
甲斐甲斐しいにもほどがあるな、と眺めていると。
新の視線に気が付き、ミアが微笑みかけてくるので、思わず目をそらす。
まるで新婚生活ではないか、などと馬鹿な事を思ってしまったのも目をそむけたくなった原因だろう。
「新さんは今日も恥ずかしがり屋さんですねぇ~」
「お姉ちゃんが可愛いからだと思うよ」
「絵里奈さんお上手です。パンケーキ1枚追加ですよぉ」
「やったぁ~!」
おいおい、子供におだてられて喜ぶなよ。
新は内心でそう思いつつ、紅茶を口に含むと、リンゴの甘い香りが口いっぱいに広がり、喉を潤し、意を温めていく。
ふぁっとした温かさが体全体を温めていき、少し硬かった体がゆっくりとほぐれていく様な感覚になる。
「う~ん、朝だぁ」
すっかりここの生活にもなじみ始めてしまい、数日前の地獄労働が遠い過去の記憶のように感じられる新。
誰かと笑い、誰かと会話し、誰かと食事を共にする、それがこんなにもすさんだ心を柔らかくほぐして行ってくれるのだと実感しつつ、ミアのパンケーキを心待ちにしている自分が居て、またソレに驚く。
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