第27話 1話 小さな来訪者(ロイヤルなミルクティーは、少ししょっぱい)
食事がすみ、婦人も一度天界へと戻らねばならないとの事で、引きあげて行った。
どうやら彼女自身がこの仕事を完遂する事によってはじめて、転生する資格を得て新たな一歩が踏み出せる、そういう決まり事で絵里奈を迎えに来たようだった。
冥界、天界にはそれぞれ役割があり、そこですべての振り分けと、魂の循環がおこなわれ、世界へと戻って行くとの事。
罪を犯せばそれなりの試練が、善い行いや、歴史に名を残すようなことをすれば望む方向へと転生が可能との事だった。
ご婦人の望みが何なのかは置いておくとしても、彼女が絵里奈を迎えに来たことは事実として受け止めなければならない。
「どうする?」
新が美味しそうにロイヤルミルクティーを、小さなその両手でカップを抱え込むようにしながら、コクコクと喉を鳴らし飲んでいる絵里奈に問いかける。
しかし、年端もいかぬ女の子にどうする? と事情を説明して問いかけたところで小首をかしげるだけだろう。
実際、彼女は小首をかしげて「何の話ですか?」と問い返してきた。
「さっき居たお姉さん居たろ?」
「うん、居た。あの人だあれぇ?」
「あの人は君のおばあちゃんだって。迎えに来たらしい」
そこで絵里奈はカップをテーブルに置き、真剣な眼差しで新をジーと見つめる。
新は何事なのかよくわからず、絵里奈のその真剣な顔を見ながら一分二分と時間が経過していくのを感じながら「(おいおい、なんだコレ。何が言いたいんだよ?!)」内心意味不明な行動に焦りと不安を感じていた。
「どうぞ、カモミールティーです。落ち着きますよ」
「オイ待て。なんでお前は蚊帳の外みたいな扱いになっているんだ」
「きゃっ。新さん、そんなに私が恋しいのですか?」
「ちゃうわ! さっきのご婦人の件だよ、この子どうするんだよ?!」
新に腕を掴まれ、多少驚きはしたのだろうが、すぐに能天気な言葉を新たに掛けてきて、身をくねらせながら恥ずかしそうにするミア。
ミアの態度に多少苛立ちを感じた新は、少し強めにツッコミを入れるも、特に気にしたふうでもなく、ミアは新たに言った。
「新さん。彼女はもうなくなっています。えっと・・・・これ見てください」
そう言って最初この場所にたどり着いた時に今居る位置はココ、という図で分かりやすく書かれたやつを再度出してきた。
「良いですか、新さんはこの3つに今行けます」
「は? はぁ・・・・それで?」
「絵里奈さんの行ける場所はこの2つです」
そう言って示された場所は、冥界と天界であり、現実世界へはいけないという様、左右の人差し指でバッテンを作るミア。
新も言われなくてもわかってはいる、しかし、こうして改めて示されれば彼女が死んでいるのだというのをいやでも突きつけられているような気がして、あまり気持ちの良いものではなかった。
しかし、それこそが重要であるかのように、今度はミアは絵里奈にその図を見せた。
「絵里奈さん、あなたの行くべき場所はこの二つのどちらかになります。恐らく、さっきの人は貴方をより良い道へと連れて行ってくれますよ?」
少し悲しそうな表情を一瞬だけしたが、すぐにミアは絵里奈に毅然とした態度でそう言い放った。
「お姉ちゃん達と一緒に居たいです」
「ごめんなさい、貴方にはここにとどまれる時間はそう多くないの。とどまり続けてはいけないわ」
そこでふと新は何故? という疑問がふっとわいてくる。
いける箇所が2つなのは分かったが、何もとどまってはいけないわけじゃないはず・・・そう思っていたのに、ミアはきっぱりと留まれないと断言した。
「なぁ・・・・」
新は疑問を口にし、答えを求めようとミアを見るが、そこで言葉が出なくなってしまった。
ミアを見れば、その目に大粒の涙をいっぱいに溜め、それでも懸命に笑顔を絵里奈に向けながら、駄目だという意思を崩していなかった。
「お姉ちゃん?」
「絵里奈さん、明日がここにとどまれる時間ですよ。分かっていますよね?」
「・・・・」
時間的な制限があるなんて事を信久は初めて知り驚く。
絵里奈は知っていたのだろう、押し黙ったまま、再度マグカップを手に取ると覚めてしまったロイヤルミルクティーに口を付け、静かにうなずくのだった。
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