第26話 小さな来訪者(真実と仕事と現実と)

「私、その子の祖母です」

 突然の告白に新は面食らうも、ミアは何かに気が付いていたのか、特に驚いた様子もなくお茶を入れるとそのままカウンターまで下がってしまった。

 ご婦人の前では一心不乱にオムライスにかぶりつく絵里奈がおり、それを柔らかい眼差しでご婦人はみていた。

「えっと失礼ですけど。死んでます?」

 不躾にもほどがあるが、新としてはすでに今いる場所が常識が通じない場所だという事を理化しているため確認の意味合いも籠っている。

 失礼極まりない質問ではあったが、ご婦人は特に気分を害す事無く、洗礼された動きで。

「ええ、わたくしは死んでおりますよ。生きていればこの子がここに来ることもなかったやもしれません」

 どういう事なのか聞くべきなのか、それとも他人の家の出来事に首を突っ込むべきではないのかを迷っていると、ご婦人が新の心を見透かしたかのように、気を聞かせて話し始めた。

「この子の両親はね、いわばできちゃった婚だったの。

 一時の気の迷いなどと言えば聞こえは良いのかもしれませんが、実際は違いました」

「どういうことですか?」

 話はこうだった。

 彼女の母親は、表んな事から相手と恋に落ちたまでは良かったのだが、その相手が体目当ての良くない人物だったらしく、子供ができたと分かれば、無責任に放り出し、彼女を捨てたらしい。

 しかし、愛した人の忘れ形見であるお腹の赤ちゃんを見捨てる事ができず、結果生んでしまった。

 その後は女手一つで育てていたのだが、ある日、ちょっとした帰り道に彼女は事故にあいそのまま帰らぬ人となってしまった。

 当時、まだ幼く3歳になったばかりの絵里奈にとって、母のすぐに戻るよ、という言葉は絶対的なものだったようだ。

 結果、彼女は帰らぬ母をまち、亡くなってしまった。

「い、いや待ってくれ。子供が居たなら、普通に母親が事故にあったときに住所の確認するだろうし、戸籍謄本とか・・・・まさか」

「ええ、住所と免許所などは偽りで。さらに出生届も出されていなかったのです。

 結果、死亡した時母親である娘は独り身であると認定された。

 さらに悪い事に、当時連絡のつく親戚がすぐに見つからず、見つかったのは3カ月後。

 部屋を訪ねたら、この子は・・・・」

 想像するに容易く、また、実際にありえないかと言えば、偶然が重なればこういう不幸はあるのだろうと、新は良く分かっていた。

 新が抱えていた仕事の中に、ごくまれにではあるが、こういう事案があったのも知ってる。

 そこでふとある事に気が付いた。

「あの、そのお話。どこの地区の」

「○○ですが・・・・」

 その言葉を聞いて愕然とする。

 その物件は新が一度関わっており、死者が出たから事故物件なのでどうにかしてほしいと丸投げされた事案だった。

 不動産関係には関わらないはずの仕事なのに、金になるからという事で会社がどこからかその話を持ってきたとの話だった。

 自分が関わりがある案件であったことに愕然とすると同時に、なんで?!という疑問が頭をよぎった。

「ありがとう、貴方達の暖かさはこの子をこんなに笑顔にしてくれているわ」

「え、あ、い、いえ・・・・」

 事故後の話で、新が特に何かをできたわけではない。

 しかしだ、今目の前にいる女の子が決して自分の人生に無関係ではなかったという事と、この歳で死を迎えてしまった事、その原因が不幸な事故が重なってしまったという事に新自身世の中の闇の様なモノを感じて嫌になる。

 自然と、自分があの時の仕事をもう少ししっかりと向き合うべきではなかったのか? そう思わずにはいられなかった。

 後悔先に立たず。

 よく言ったものである。

「あ、あのご婦人は何をしにここへ?」

 俺への当てつけだろうか? そう思わずにはいられず、心身穏やかではない新たに。

「この子をお迎えに参りました。安らかな地で魂を癒すために」

 慈しむ瞳が絵里奈を捕らえる。

 新は絵里奈が居なくなってしまうという事実に、少なからずショックを受けたが、よくよく考えればそうである。

 ココは中間の間の世界、皆、あるべき場所居るべき場所があるのだから。

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