第25話 1話小さな来訪者(黄色のお化けと慈しむ微笑)
慌しい波が終り、人の出入りが落ち着いたころには新も絵里奈もバテバテで、お客様が1人しか残っていないという事もあり、二人はテーブル席に座りぐったりとの祖身をテーブルに投げ出していた。
絵里奈は座高の高さがテーブルギリギリなので、テーブル席のソファーにその身を預けゆっくりとする。
「お疲れ様ですよぉ。こちらがご飯です」
疲れた体を休めている二人に、ミアが両手に丸い少し大きめのお皿を持って現れ、テーブルの上に置いた。
ケチャップの良い香りが鼻をくすぐり、そこに置かれたものが何なのかすぐに理解する。
「オムライスぅ~!」
疲れてぐったりしていた絵里奈が元気いっぱいに声を出し、目をキラキラと輝かせてその黄色い甲羅のような、でもフワフワしたソレに心躍らせる。
まるで宝石か宝箱でも見つけたのかというぐらいに声が弾んでおり、その光景を見ているだけで新もミアも嬉しくて頬が緩む。
「クマさんが描いてある!」
絵里奈のいう様に、黄色いそれには赤いケチャップで絵が描かれており、それが見て可愛いクマさんのように見えるのだ。
ちょっとした気遣いなのだろう、新も疎を微笑ましそうに見た後、自分のオムライスを見てその動きを止めた。
(頑張った新さん、偉い偉い)と何ともむずがゆくなるような、この歳でこういった事をされることに気恥ずかしさを感じ、すぐにスプーンを手に取ると、ケチャップを広げる名目ですべての文字を消した。
「あぁ~」
気落ちしたような声が耳に届き、新としても若干の心苦しさの様なモノはあったが、そこをグッとこらえて消す事に専念し、ミアの方に視線を向けない様にしながらオムライスをスプーンに乗せて一口食べる。
フワリとした黄身に包まれている濃厚なトマトの香りと酸味、米からくる甘みと卵の甘みと柔らかさがトマトの酸味とうまい具合にマッチし、それをチキンや玉ねぎなどのちょっとした野菜がアクセントになってとても美味しく感じられる。
「うまい・・・・」
思わず声が出てしまい、驚きで目を見開く。
そんな新に絵里奈が美味しいよねぇ、という笑顔を向けてくるので、素直にあr他も笑顔で何も言わずかえすと、満足げな顔でさらに微笑み返した来た。
「お二人とも、食事中にごめんなさい」
オムライスを半分程食べたころだろうか、不意に声がかかりそちらに顔を向ける。
絵里奈はと言えば、口いっぱいにオムライスをほおばりながら、口周りにケチャップを付ける事も厭わず、ただ黙々と食べ進めていた。
どれだけ美味しいんだよ、と口に仕掛けて教会で見たこの子の死因を思い出して、よく食べろよ、と心の中で願いながら、声を掛けられた人物へと顔を向ける。
そこには先程のご婦人が少し申し訳なさそうに立って居た。
「あ、えっとぉ、さっきの・・・・」
オレンジムースのケーキと紅茶をご注文されていたご婦人で、新は何故だかこの人の事を印象深く覚えていた。
「ええ、お隣、よろしいかしら?」
意図が分からず、新は少し迷った。
ソファー席の奥へとお皿と陣の体をどかし、ご婦人が座れるスペースを作る。
ご婦人は会釈をした後ゆっくりとその席へと腰かけた。
丁度目の前では一心不乱に絵里奈がオムライスを食べている。
「美味しいですか?」
「・・・・・」
ご婦人に話しかけられ、少し顔がこわばる絵里奈。
言葉は発しなかったが、こくりと頷き、また食事へと戻って行った。
新は何か声をかけたほうが良いのだろうかと、戸惑いながらそのやり取りを見ていると、ご婦人は新たに顔を向け。
「ありがとう」
と頭を下げて綺麗に微笑んだ。
あまりに唐突な感謝の言葉に、一体何への感謝なのか。
また、このご婦人はいったい何がしたいのか新にはわからず戸惑うばかり。
そんな3人のやり取りに。
「どうぞ皆さん」
そう言ってそれぞれの目の前にミアがティーカップを置きながら紅茶を注ぐのだった。
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