第24話 1話小さな来訪者(慌しさと指示と照れた顔)
「そうか、俺に安住の地はないのか」
昼を過ぎたころだろうかペチュニアでゆったりと在庫整理をしていたら、一人、また一人と来店客が増え、気が付けば満席状態となっていた。
「新さん、3番さんと10番さんにローズヒップとアールグレイ、ジャスミン茶、それからカップケーキが3つに、シフォンケーキ2つ届けてください」
「お兄ちゃん、それ終わったら、5と6にプリンとシフォンケーキで」
あろう事か絵里奈までも小さなウエイターさんをやっており、できる事と言えば注文を取る事と、指示を飛ばすことぐらいしかできないのだが、妙に的確であり、お前5歳時ぐらいだったよなぁ?! と新はツッコミを入れたくて仕方がない衝動にかられながらてきぱきと指示をこなしていく。
お客様と言えば、全て人の姿をしてはいるが、死人、神様、天使、悪魔、地縛霊、はては動物や異世界の住人とありとあらゆる人物が来客するおいう意味の分からない状況になっていた。
しかも、「そちらのお客様、日本に・・・えっと、スサノオ様です」だとか色々聞き覚えはあるが、聞き流したい人物の名前がチラホラ出てくるので、新はスルーを決め込んでいた。
「なんで神がお茶しに世界の間にあるお店に来ているのかなぁ」
「若いの、見て分らぬか」
「分かりませんよ。ってかどちらさん?」
「アマテラスじゃよ」
「・・・・・・・」
「それでな、来ているのは彼女目当てじゃ」
現代の私服に身を包んだ、見目麗しい髪に問えも艶のあるロングへやーのお姉さんが、新に自己紹介をするも、本物だったらややこしいし面倒くさい事になるので聞かなかったことにする。
アマテラスと名乗った女性は、カウンターで頬杖を突きながら、カウンター内でいそいそと紅茶を入れつつ、タイマーと戦っているミアを見て嬉しそうに微笑んでいた。
「ほら、そっちがもう鳴るぞ」
「あ、はぃ~。新さん、美人なアマテラスさんとイチャイチャしてないで仕事してくださぃ!」
「どこをどう見たらそう見えるんだ。で次は?」
「ハニービーとこの紅茶をあそこのご婦人に!」
紅茶の入ったガラスポットと、ハニービーと言われた、オレンジと、恐らくオレンジのムースに下地の生地がチョコのムースケーキをご婦人へと運ぶ。
「お待たせいたしました」
「あら、ご親切にありがとう。美味しそうね」
「えっと、オレンジのムース的なやつらしいです」
よく知らないが、それでも何かを答えなければいけない、そんな気がしたので新は慌ててそう言葉にすると、女性はにっこりと微笑んだ。
「あらたしゃん、5番テーブルです!」
「ハイハイ。指示だけは的確だなぁあの子は」
「元気そうね・・・・・彼女はお役に立っているのかしら?」
「へ? ああ、なんか俺より戦力ですね」
「そう・・・・」
なんだろう、何か変な違和感を感じ、新は再度そのご婦人に声を掛けようか迷っていた時。
「昨晩ミアさんとイチャイチャしていた事皆さ・・うぅ~ぅ~!」
「ちょっと黙ろうなぁ。あとそこ、赤くなるな!」
変な事を言い出した絵里奈の口を慌てて駆け寄り口をふさぐ新。
しかし、それを聞いていたミアも、カウンター内で新たに視線を向けたまま目を見開きその首筋から見る見る顔が真っ赤に染まっていくのが遠目でも視認でき、新はすかさず釘をさす。
そんな和やかだけど、少し慌しいペチュニアの窓際の席で3人のやり取りを穏やかに眺めながら、ご婦人は淹れえ頂いた紅茶に口を付け、ほっと一息。
「私、どうしようかしら」
決意が鈍りそうだというような、そんな声音で、誰に問いかけるでもなくそう言葉を漏らしていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます