第23話 1話 小さな来訪者(背中に残る温もりと胃に暖かな温もり)

 安心できるというのはいつ以来だったのだろうか、自然とした眠りに落ち、気が付けばゆっくりとした覚醒を促され、ゆっくりと目を開ける。

 朝なのか、それともお昼頃なのか、それすらも曖昧な感じの目覚め。

 ふと気になり背中にあるはずの暖かさに意識を向けるが、そこに温もりはないし、目の前で寝ていたであろう少女の温もりもなかった。

 なんだ、俺は都合のいい夢でも見ていたのだろう、さぁ仕事へ行かなければ、そう思い起き上がるがそこはやはり自分の部屋ではなかった。

「都合のいい事が起きすぎてるのかもな・・・」

 昨晩の温もりと優しさが胸の奥をじわっと暖かくし、その暖かさに身を委ねたい気持ちで居ると。

「新さんそろそろ・・・おはようございます」

「うぉっ・・・おはよう」

 不意に部屋のドアが開き、ミアがちょこんと顔を出す。

 白のベールの布地が少し右側により、髪の毛もそれに合わせて右による。

 その仕草がたまらなく可愛く見え、新は寝起きの頭に強烈な一撃を受けた。

 昨夜の甘いやり取りが脳裏をよぎっていたのもあり、共同不振になる新たに、うふふ、と何が嬉しいのかミアが嬉しそうに微笑む。

「ご飯ですよ」

「お、おう・・・・」

 ミアは用件が済んだのか、すぐに顔を引っ込めて部屋を後にする。

 頭を振り、邪念を脳内から追い出すと、新は支度をしてリビングへと向かった。

 リビングに入ると、テーブルには既に絵里奈がゆっくりとその小さく愛らしい口でモグモグとパンを食べ、オムレツをホークでさして味わっているところだった。

「朝から凝ってるな・・・どっかの店の朝食セットだな」

 近年喫茶店ブームがあり、お店ではコーヒーを頼むとセットで勝手にパンとゆで卵や、パンとジャムや、あんこが付いてくるといったサービスが流行り、その延長線上で、朝食セットも格安で頂ける、などと言う時期があり、今ではすっかり定番化していた。

「うまそうだな。時間かかったろ?」

 家でこれだけのモノを出すなんて言うのは、お前漫画の見すぎか、映画やドラマの見すぎだろ?! という人が居るがまさにその通りだろう。

 これだけのもの朝作り、朝食として出すのは骨が折れる。

「う~ん、確かに手間なんですけど・・・・」

 そういって美味しそうに一生懸命にオムレツを口に含み、嬉しそうに微笑む絵里奈に視線を向けた。

 なるほど、絵里奈のために少し頑張ったという事なのだろうと納得し、そのおこぼれに預かれる事に感謝をしつつ、手を合わせ新もそのご相伴に預かる事とした。

 小さな女の子が居る、というだけでこれだけ変わる者なのかなぁ、とふと思うが、横目に絵里奈の笑顔を見ていると、確かにこの笑顔のためなら少しぐらいの苦労は厭わないかとも納得してしまった新。

 パンにコーンポタージュにオムレツと四分の一にカットされたトマト、それらが一つのお皿に切れーに餅つけらており、コーンポタージュはマグカップにしっかりと、ビスケットクランチまで入っている。

 よくお店で見る、コーンポタージュにちょこっと入っている、食べるとカリッとするアレである。

 オムレツにホークとナイフを入れると、スッと柔らかくしなやかにナイフが入り、とてもふんわりと仕上がっているのがそれだけでもわかる。

 口に含めば、ちょっとしたミルクの甘みと、卵本来の甘みとコクが口いっぱいに広がり、早朝の乾いた口を潤いと優しさで満たしていく。

「うまい・・・すごいな」

「ホントですかぁ。やったぁ~」

 新の口から素直な感想が出ると、それをどうやら緊張した面持ちで聞いていたらしいミアがほっと胸を撫で下ろし、今にも飛び跳ねて喜びだしそうな、そんな弾んだ声音で嬉しそうに言う。

 その表情が視界に入り、思わず昨夜の事とリンクして頬が緩みそうになると同時に、体内の熱があがったような気がした。

 誤魔化すようにしてコーンポタージュに口を突ければ、こちらもまた、クリーミーな中に濃厚なコーンの甘みとコーン特有の味が広がる。

 冷え切っていた胃にゆっくりと流し込まれる熱い液体が、体の内部からじわぁっと体を温めていくのが分かり、心から安心できる。

 そんな暖かな朝食があまりにもおいしすぎて、新は絵里奈と一緒に黙々と食べ進めて行った。

 それをミアはニコニコと心から嬉しそうに眺めながら自分も食事をとる。

 こんな何でもない朝の出来事が、新は大切なんだと、凄く思い知らされる一幕となった。


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