第21話 1話 小さな来訪者(暖かいベッドと優しい微笑)
お風呂が終り、一日の疲れを洗い流して一息ついた後、今日は色々あったなぁなどと新が思っていると、入り口のドアがノックされた。
「どうぞ」
新は来訪者に部屋への入室を許可すると、恐る恐るといった感じでドアが開かれる。
ドアの先には絵里奈が枕を抱えて立って居た。
「どうした? あれ、ミアと寝るんじゃなかったのか?」
「お姉ちゃん、少しお仕事があるからって・・」
「そうか・・・」
いやまて、俺にどうしろって話なんだこれ?
内心で面倒くさくなったら新たに話をふった。などと言う事はおそらくないだろうと新もわかっているのだが、それよりも心配なのはミアの寝相の悪さと、裸族だという事実である。
「お姉ちゃん忙しいみたいだし、先に寝ちゃおうか」
「お兄さんと寝るの?」
嫌なんだろうなぁ、と内心で少しショックを受けた新ただったが、意外にも絵里奈はうん、と言いながら新の胸に持っていた枕ごと飛び込んできた。
フワリとした枕の感触とは別に、女の子特有というべきなのだろうか、フワリと髪が靡くと同時に花のような甘い香りが新の鼻をくすぐる。
こんなに小さな女の子でも、女性としての特徴や主張がある事に新は少し驚いた。
ただ、相手は年端もいかない女の子なので、当然欲情することなどあるわけがないが、女性だという事を意識させられた手前、今まで小さな女の子や、妹、ましてや彼女等居た事がない新は、絵里奈をどう寝かしつければいいのか全く分からず、内心気が気でなかった。
そんな新の葛藤などお構いなしに、えへへ~、と笑顔を浮かべながら絵里奈がベッドへと入ってくる。
どうしたら良いのか分からないで居ると、絵里奈は自分の枕を新の枕の横に並べ、布団を自分にかけ。
「お話してください」
「話って?」
突然話をしろとせがまれたが、新からしたら何を話せばよいのか全く分からず困惑する。
「お姉ちゃんのお話聞かせて!」
「悪いが、俺はミアさんの事よく知らないんだ・・・」
初めて彼女の名前を呼んだ気がすると新は思った。
思えばここに来てまだ2日程度だろう、その間に新はミアの事をただのポンコツ裸族という以外、何も知らないのだという事を気付かされる。
「お兄さんは何でここに来たの?」
どうやら話題がミアの事から新たに変わったらしく、今度は新たに対して興味の目を向けていた。
「お兄さんはな、なんというか気がついたらここに居たんだ」
「帰らないの?」
「帰る場所が無くなっちゃったから帰れないんだ」
「私はね、多分帰れないと思う。でもお兄さんは帰れると思うよ。どうして帰らないの?」
変える場所がないと、そう言ったにもかかわらず、それが答えではないだろうと言わんばかりに、絵里奈は屈託のない笑みを浮かべながら質問をしてくる。
「そうだな、お兄さん疲れちゃったんだ。ミアさんの優しさに甘えてるのかも」
「そうなんだ。お姉ちゃん優しくて暖かいもんね!」
声を弾ませ、嬉しそうに笑う絵里奈。
そうだね、と新は同意しながら気が付かされる。
彼女の優しさや、慈しむ心、そして何より新を包み込む暖かさに新自身が甘えていたという事に。
でも仕方ないだろ、ブラック企業で身も心もボロボロにされ、心身ともに死ぬ一歩手前まで来てしまっていたんだ。
そんな男にの優しく慈愛に満ちた笑みと、温もりはもはや反則だと言っていいのではないだろうか。
世の中にはおそらく自分と同じ人間が大勢いる、そんな一人の氷山の一角の自分が、奇跡的に彼女の元にたどり着けたのは幸運と言って良いのかもしれないと、隣で微笑みかける絵里奈を見てつくづく感じたのだった。
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