第20話 1話小さな来訪者(あわあわと小さな幸せ)
新さん、お湯加減どうですか?」
「は? いきなりなんだ・・・オイ待て脱衣場で何して・・・」
「わ~い!」
「あ、駄目です!」
入浴中。
本日に疲れと穢れを洗い流し、束の間の癒しに全身で浸っていたところミアから声がかかり、スモークガラス越しにそちらを見れば、ガラスの向こう側でもぞもぞと動いているのが新には見えた。
とっさに脳裏に浮かんだのは、漫画などでよくあるお約束パターンで、まさかそんな事は起きないだろうと思っていたのだが、その期待は一人の無垢な少女の突撃によってあっさりと粉砕された。
絵里奈はその年相応な無邪気さをいかんなく発揮し、ガラス戸を開けると寛いでいた新めがけて飛びついてきた。
慌てて彼女を抱きかかえると同時に、視線は脱衣所へと向く。
そこには今まさにバスタオルで大切な部分を隠そうかなぁ、というような動作をしていたミアが目に飛び込んできた。
「あ、新さん。何を見ているのですか!」
「お前は、何でこういう時だけ恥ずかしそうにするんだよ!」
裸で人のベットに潜り込み、朝は裸体を見せつけつつ恥じらいもしないのに、何故かお風呂はダメらしく、非常に恥ずかしそうにしながら新から見えないように隠した。
羞恥心の度合いとタイミングが不明である。
そう思いつつ、新は飛び込んできた絵里奈を抱き上げる。
「おい、危ないだろ。怪我してないか?」
「うん、大丈夫!」
邪気の無い笑みが新に向けられるので、新もつられて笑みが浮かぶ。
不思議なもので、仕事をして、一人で居たころにはこんな笑顔など、どう浮かべたらよいのかすらわからず、ただ過ぎていく時間と無意味なサービス残業に心も体も蝕まれ、気が付けば笑うという単純な事すらできなくなっていた。
それがどうだろう、子供の純粋さというのは恐ろしいもので、こちらが拒もうが、疲れていようがお構いなしに純粋な気持ちをぶつけてくる。
こんなのつられて笑顔を返してしまうではないかと、新はアホな事を脳内で繰り広げていた。
そんな新と絵里奈のやり取りを横目で微笑ましそうにしながら眺め、ミアはゆっくりと湯あみを始めた。
「オイ待てポンコツシスター。なに一緒に入る気になって・・・・バスタオルを脱ぐな!」
「脱がないと洗えません。バッチいです。ほら、絵里奈さんもお体洗いますよぉ」
「うん!」
「嫌だからな・・・・」
「♪ら~ら~ら~らら~♪」
ミアがもっともな事を言い、何のためらいもなくバスタオルを脱ぐと、近くに置いてあった体を洗う用のタオルを取り、ボディーソープでタオルを泡立て始めながら絵里奈に声をかけると、新の腕の中からするりと抜け出し彼女の元へと行く。
新はその先にある芸術的な出の白い肌と、綺麗な曲線をえがいた裸体に目が行きそうになり、慌てて脳内の理性がそれを止め視線をそらしたが、バッチリとその綺麗な乳白色の素肌と、マシュマロの様に柔らかそうな胸を視界にとらえていた。
鼻歌を歌いながら体を洗い始めるミア。
ミアは自分の体をタオルで洗い泡で包み込んだ後、同じように絵里奈の体も優しく丁寧に泡で包み込んでいく。
少しくすぐったそうに身をよじってはいたが、やがて気持ちよくなってきたのかミアに身を任せつつ、二人して鼻歌を口ずさむ。
それを新が眺めるという、どこの信仰生活真っただ中の幸せ家族なのかと、新はツッコミを入れたくなりながらも、こういうのが極上の幸せなのかもしれないと思いながら、ミアと絵里奈を慈しむ様な目で見て微笑んでいた。
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