第19話 1話小さな来訪者(祈りとおままごと)

教会に着くや否や、すぐに十字架の前まで来るとその場に膝を折り首を垂れ、両手を胸の前で合わせ握り祈りのポーズをとるミア。

 教会に来るなりそんな事をし始めるものだから、新はどうしたら良いのか分からなくなっていると、どこからともなく一枚の紙がヒラヒラと彼女が祈りを捧げる場所へと舞い落ちてくる。

「なんだアレ?」

 その紙には文字が書かれているのが遠目にも見え、ミアの目の前にフワリと落ちた。

「皆さまありがとうございます。新さん」

 一言誰なのか良く分からないが礼を述べると、新に向き直り手招きをした。

 新はいったい何が起きているのかさっぱり意味が分からないまま、怪訝な顔でミアに近寄ると。

「これが彼女の経歴だそうです」

「は? いやいや意味が・・・」

 ミアが何を言っているのかさっぱりわからず、頭をかきながら新はミアに近づいた。

 新が近寄ると、満面の笑みで手に持っていた紙を渡してくる。

 そこには彼女の出生から今までが記録されていた。

「死因・・・・餓死?! この日本でか?」

 とは言ってみたものの、新も最近報道で度々この手の話題は小耳にはさんでいるし、無いとは言えないだろうと思った。

 また、新たに対する彼女の態度も少し引っかかっていたので、新としては全否定がとてもではないができなかった。

「で、これを知ってどうするんだ?」

 そう、問題はそこである。

 彼女の経緯や経歴を知ったところで、新たちに何ができるのかというのが今回の問題だ。

「う~ん、分かるのはこれだけですし。愛情で満たしてあげれば良いんじゃないですか?」

「・・・いやな予感がするんだが」

「新さんが彼女の疑似的なお父さんになれば良いのです」

「断る」

 即答した。

 まだ嫁ももらっていない三十路すぎた男が、何が悲しくてパパなどやらなあかんのだ。

「私がママですよぉ。嫌ですか?」

「ぅ・・」

 上目図解に潤んだ瞳で、邪気の無い無垢な問い掛けを新たにして来るミア。

 ここで負けるな新庄 新、ここで負けたらなんか色々大切なものを失うぞ。

 などと葛藤していたのだが。

「紗理奈さん。今晩は何が食べたいですか?」

「ハンバーグ!」

 どういう事だろうか、あれよあれよという間に、新は絵里奈に懐かれ、気が付けばパパみたいな扱いになり、夕方になれば家族団らんみたいな雰囲気で、ミアが台所に立ちながら、新が絵里奈の面倒をみる羽目となっていた。

「ほら、あらたさんは私と遊ぶの!」

「へ、へ~い」

 なぜこうなったのだろうか、そう思いつつ目の前で繰り広げられるおままごとに新は言われるがままに参加させられることとなった。

「うふふ、嫌がっていた割に、新さんは様になっていますね」

 声を弾ませ、台所から顔を出したミアが余計な一言を掛けた後、すぐに電子レンジに呼ばれて戻って行く。

 何か言い返そうにも、非常に忙しそうな彼女に文句も言えず、はぁと一つ溜息をついて彼女の後ろ姿を目で追っていると。

「あらたさんは、ミアお姉ちゃんが好きなの?」

「は~い、おままごとの続きしようなぁ」

 ミアがこの話題を聞いたら確実に面倒くさい事になると瞬時に判断した新は、絵里奈に遊ぶ様に促すと、流石に小さい子供だけあってすんなりとそれを受け入れ、うん、という屈託のない笑みを浮かべてくれた。

 しかしその笑みを見て、新は自分がいかに穢れているのかというのを痛感させられて、俺はいったいどうすりゃよかったんだ。と嘆くのだった。

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