第16話 1話 小さな来訪者。
早朝の慌しさも落ち着き、昨日から続いている在庫管理処理を終え、一息ついたころにはお昼を少し過ぎたころになっていた。
お客様が来るかと思ったが、誰一人訪れることなくこの時間まで作業に没頭することなった。
「新さん、重いので少し手伝っていただけますか?」
厨房で作業がある、そう言ってお店を新たに任せ引っ込んでいたミアが、厨房から顔を出す。
「なんだ?」
何を作ったんだと思い厨房を除くと、そこにはシュークリームの山がウェディングケーキの様にタワーになっていた。
確かフランスでのお祝い事などで良く出てくる、クロカンブッシュと言われるものだったはずだ。
「なぁ、なんでクロカンブッシュ? 祝い事でもあるのか?」
「ありませんよ。私の気分です」
今日も天使の様な微笑を浮かべながら、新の疑問に楽しそうに答えるミア。
クロカンブッシュをよく見れば、花火の様なモノまで刺さっている。
「なぁ、これ花火だよな?」
「花火ですよ。綺麗ですよねぇ」
いやまて、綺麗だけど、なんで?!
新はツッコミを入れたい気持ちをグッとこらえ、店内へと運ぶ。
店内にある小さなショーケースに先回りをしていたミアは、そこの扉を開けた。
「なぁ・・・・」
「はい、どうしました。入れてください」
「どう見ても入らないが・・・・どうしろと?」
そんなはずはぁなどと言うので、仕方なくショーケース手前までもっていき、入れる動作をするが、どうしてもあたま半分ほど出ていて入らない。
「えぇ~」
「えぇ~、じゃなくてちゃんと計算して作れよ」
「だってぇ・・・・」
カラン、カラン、と突然入り口のドアが開く音が聞こえ来客を知らせる。
「いらっしゃ・・・前が見えん」
「いらっしゃいませ、あら可愛い」
新はクロカンブッシュの高さのせいで視界を遮られていたため、来客の姿が見えない。
ミアは来客がどんな人物なのかすぐに把握したらしく、感想を述べていたがなぜかその視線の先が下向きなのが気になった新。
「どうぞぉ~」
お客様はミアに促されるように、店内の窓際にあるソファー席へと案内される。
何故そっちなのかと疑問に思ったが、丁度そのお客様がソファーに腰を落ち着けたところで合点がいった。
フリルの付いたドレス系の白ワンピースに身を包んだ、見た目5歳か4歳ぐらいの少女が、警戒心を全開にしてそこに座ったからである。
見た目的にどこのお嬢様だよ、と言いたくなるほどに着飾られており、ご丁寧に可愛らしいポーチまで身に着けている女の子に新は珍しいと思った。
そんな女の子が新に気が付くと、その鋭い眼差しで新を見つめた後、急に怯えた表情になり、涙目になりながらミアのシスター服をギュッと掴んだ。
「怖い・・・・」
まて、俺は何もしていないぞ、と言いたかったが、何故かミアの表情も鋭く。
「新さん、いじめてはいけません!」
いじめてねぇよ、逆だよ俺がいじめられてるよこれ。
と心の中だけでツッコミを入れつつ、新はできうる限りの最大級の営業スマイルでにこりと笑いかけた。
しかし、女の子は更にその表情に恐怖の色を濃くし、怯えた表情をしたので新はミアの反応も少し納得いかなかったこともあり、手に持っていたクロカンブッシュをもって女の子の席の前に立ち、それを彼女の目の前に置いた。
「新さん?」
突然の新の行動に困惑の色を隠せないミアを無視して、よくたばこを吸うのに使っていたライターを取り出し、クロカンブッシュに刺さっていた花火に火を笑顔を携えたまま無言で付けたのだった。
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