第14話 ま・た・で・す・か?!

「詳しくは知らないけどアレだっけ、普通は天気雨をさす名称で使われ、地域によっては狐雨、狐の祝儀、なんて呼び方もあるらしいけど。詳しくは・・・・」

「むしろ一般人のお主がなぜそこまで詳しいのかについて聞きたいぞ私は」

 呆れたように目を細める寿様。

 その切れ長の目が新を捕らえ、新は思わずその鋭さが自分の心を見透かしているかのように見えて恐怖を覚えた。

「晴れているのに雨が降る。雨は古来より天からの恵みであり、それが神聖なものと考えられたという説もある。

 また、人が化かされる、などと言うのもあったな。

 しかし、それとは別に、人が神に嫁ぐ、もしくは人が嫁入りをする際の行列が昔は盛んでな、その篝火の行列が狐の嫁入りなどと言われていた地区もある。

 嫁を取るというのは一種の神聖な行事で、嫁は家主が留守の間預かり、守り、支える役目を担っていた。

 どの説が正しいかというのは問題ではない、問題なのは、その出来事をどうとらえるかといういわば受け取り側の解釈の問題もある。

 まぁ、それで実際に神様に嫁いだ人間が現在るわけだ」

 あはははは、などと何が楽しいのか、とても嬉しそうな声で高笑いをする寿様にミアはニコニコとしながら空になったティーカップにお茶を注ぐ。

「えっとつまりドユコト?」

「要は物事の捉え方は人それぞれ異なり、悪いこと良い事をどうとらえてその先をどう生きるのかいきてゆくのかというのは己が決めるという事だ。

 話がズレている気がしなくもないが、それでも新たにとって今の言葉はとても心に刺さる一言だった。

 今自分の置かれている状況に悲観的になるのは仕方がない、でもそれを次にどう生かしていくのかが重要という事なのだろう。

 やってしまった事や起きてしまった事は仕方がないが、それでもここから先の未来は自分がまだ何もしていないのだから変えていける。

 寿様の言葉にはなぜかそれを遠回しに言っているような、そんな気がしてならなかった。

「あの・・・ありがとうございます」

「はて、何のことだ? 私は由来の様なモノの話をしていただけだぞ」

「新さん、良い顔してますよ」

 礼を言うと、寿様はとぼけたような表情をした。

 ミアはそんな新を見て思わず嬉しそうに声を弾ませながらそういう物だから、新はバツが悪そうにそっぽを向く。

「新といったな。ココは迷い人や、神、死人が立ち寄る憩いの場だ。お前はココで見後どう生きるのかよく考えるんだな。

 時間は有限だが、焦る事はないだろう」

「・・・・」

「はい、新さんはゆっくりしていってくださいね」

 暖かいと感じる。

 現代の日本にはこんな暖かさはなかった気がする。

 自分が目を向けていなかったのか、はたまた、自分の置かれていた状況がそうじゃなかったのかは分からないが、確かにここには疲れた心と体を癒す何かがあるのだと、自分の隣で無邪気に微笑むポンコツシスターをみてそう思ったのだった。




 翌日 早朝6時25分

「だが、だからと言って・・・・なぜこうなるのだ」

 寿様が帰りその後はお客様が訪れなかったペチュニアを早々に切り上げ、新の部屋を作るという事で、一つの部屋をお掃除し、やっと寝れる状態になった。

 最初はミアが「え~、一緒に寝ましょうよぉ~、寂しいですぅ」なとどのたうち回っていたのだが、今朝の全裸事件もあったため、健全な35歳男子の体にはいささか刺激が強すぎるため丁重にお断りし、自分の部屋を即座に拵えたのだ。

 なのだが。

「すぅ~、すぅ~」

 新のベッドにはシーツにくるまった乳白色の白い肌を晒し、無垢な寝顔を横目にしていた恐らく何も身にまとっていない女性が、とても心地よさそうに寝息を立てていたのだった。

「勘弁してくれぇ」

 嘆き鬱も、男としてはみめうるわしいじょせいが生まれたままの姿で寝起きに可愛い寝顔を見せてくれるのは心にグッとくるものがあると馬鹿な事を思うのだった。

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