第11話 鼻歌と弾む声。

 お客様である未菜が用事があると言いお店を後にした事により、賑やかだった店内がまた静けさに包まれる。

 二人きりの空間、何を話してよいのかが分からず、新はどうしたものかと考えているのだが、問題の張本人であるミアはと言えば。

「♬~~~~~~」

 鼻歌を交えながら在庫確認だろうか、小箱を開けては茶葉が入った銀色の包みを取り出しては数を数え、楽しそうに作業をしている。

 新は何がそんなに楽しいのかと思い、彼女の手に持つバインダー、そこに挟まっている白い用紙に書かれたものに目を向けた。

「はぁ?!」

 それを見て思わず素っ頓狂な声が漏れる。

 白い紙には、ミミズが管でも撒いたかのような殴り書きがされており、全く読めない。

「おい・・・・・」

「ら~ら~・・・え、何か言いました?」

「言いましたね。何してるんだ?」

 一応自分の見間違いか、思い違いをしているのではないか、そう思ったので新は確認のために聞くことにした。

「何って。言ったじゃないですか、在庫確認だって」

「それは?」

「リストです」

「何のだ?」

「だから紅茶の在庫確認リストで、戸数も書いてあるじゃないですか」

 そういって今度は新たにはっきりと見える様に、突き出しながら見せつけてきたが、やはり殴り書きなうえにとても見れたものではない。

「パソコンとプリンターあるか?」

「ありますよ・・・・何するのですか?」

 案内しろと促し、新はため息をつきつつミアの後に付いていく、ミアはペチュニアを出て教会へ行き、教会の住居区画へと入る。

 その中の一つの部屋、おそらく彼女の自室なのだろう床へと入る。

 新はドアの前で一瞬立ち止まる。

「何されてるんですか? 中ですよ」

 分かっている、しかし、齢35、女性の部屋に踏み入ったのはいつ以来だろうかと考えるとどうしてもその足が重く、入って良いものなのかと不安がよぎる。

 しかし、部屋の主は小首をかしげ、何故入らないのかと小首をかしげていた。

 こちらの気遣いを良く分かっていないその仕草が可愛いとは思いつつも、頼むから勘弁してくれとも新は思った。

 20代前半の可憐な女性のそんなしぐ仕草を目の当たりにして、30後半の生きる事に絶望すら感じる状態になってしまった男には非常に辛い、これだけでコロッと恋に落ちても文句は言えまい。

 などと馬鹿な事をあらは自分の頭の中で、天使と悪魔的なやり取りをして何をしているんだ俺はと、自分に呆れる。

 部屋に入り、驚いたのはちゃんと薄型モニターとデスクトップ型が置いてあり、しかも明らかにゲーミング用だった事だ。

「あのぉ~、ミアさん・・・・」

「何ですか?」

「これゲーミング・・・・」

「そうですよ。これでオープンワールドゲームしてます」

 とても声を弾ませていう彼女に、シスター服を着た女の子が、異世界で現実世界とつながってオープンワールドゲームをしている。

 明らかにシュールというか、何とも言えない気持ちになった。

「てかここネット繋がってるの?」

「繋がってますよ、未菜さんの上役の神様の寿様っていう人がその辺詳しいのでやってくれました」

 至れり尽くせりです。

 などと言っていて、もう何が何やらと思う。

 パソコンを立ち上げ、さてやるかぁ、と思ったところで。

「あのぉ、つかぬ事伺いますが、紅茶って名前あったり?」

「全部お名前が違いますよ・・・・・言いませんでしたっけ?」

 新はそこで自分もまたミスをしている事に気が付いた。

 リストを作ろうにも、そもそもその名前が分からなければ作りようがないという事に。

 はぁとため息を一つ尽きつつ立ち上がる。

「どうされました?」

「すまん、偉そうなことを言っておいてなんだが、紅茶の名前を見に行かないとリストが作れない」

「それなら大丈夫ですよ」

「なぜ?」

「私の頭には全部入っていますので」

 マジかこいつは?!

 新は先ほど見たペチュニアの店内、その小箱をしまってある棚を思い出していた。

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