　春に鼻の香りが漂ってくるような、そんなフワリとした優しい感覚。

　紅茶など飲んだことすらない新にとっては未知の飲み物である。

　午後のなんちゃらとかは一度だけ含んだことがあるのだが、あまりの甘さに「うっぁ、なんだこれ」と口に出してその後水道に泣く泣く捨てたのはいい思い出ともいえる。

「よいしょ、ふぅ～」

　奥から大きな丸いお皿に華やかな白いクリームに、色とりどりのベリーが散りばめられたドーム状のケーキが八つに切られた状態で乗っかっており、それをレジ横のガラス小ケースに入れる。

「♬～～～～～～♬」

　鼻歌を歌い、クルリと一回転しながらスキップしてカウンターの奥の端まで行き、アンティークなティーカップとお皿を二つ。

　一つはカップを乗せるために、そこに銀色のピカピカに磨かれたスプーンを置く。

　もう一つは先程のガラスケースの所まで戻ると。

　ケーキをその上にさっと乗せ、慎重な感じで新の元までもってきた。

「どうぞ！」

「え、ああ、これはご丁寧に」

　差し出されたケーキは、とてもフワフワなシフォンケーキにクリームとベリーを挟み込んだもので、白い雪原に色とりどりの宝石をちりばめたかのような、そんな綺麗なケーキだった。

「あの」

「はい、今お茶が入りますよぉ」

「いやそうじゃなくて・・・・ホーク」

　ケーキを出されたは良かったのだが、肝心のホークがなくつまむことができずに居た。

「へ？！　あっ、私ったらつい・・・こちらです」

　これまたアンティークな飾りのついたホークが出てきて、えぇ、これで食すのか。と新は少し気が引けていた。

　しかし、目の前には新がその白い宝石に手を付けるのを今か今かと待ち望んでいる、まるで、少女漫画の様に目をお星さまにでもしているのではないかというような、そんな眩しい瞳を向けていた。

　はぁ、と一息ため息をついて、新は少し緊張した面持ちでケーキにそっとホークを通す。

　スッとホークが入っていき、白とベリーの赤や紫にちょっと着色された生地とクリームが付いたケーキをすくい上げる。

　見ているだけでも楽しいと思えるほどに、完成度が高いケーキに新はごくりと喉がなった。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい