第4話 お茶は好きですか?

「お茶でも入れますよ。どうぞ」

 ミアがそういってにこりと微笑誘う様に先ほどの喫茶店へと入っていく。

 新は後ろ髪惹かれる思い出ライトレールの車両を見ながら踵を返し、ミアを飲み込んだレンガ造りの西洋風建築の建物へと入る。

 中は西洋風という事もあるのか、木の落ち着いた雰囲気漂う作りで。

 ヒノキに近いとても良い香りの、木独特の匂いが鼻をくすぐる。

 そんな独特の香りの中に、鼻を一面に広げた様な華やかな香りが新の鼻孔を擽った。

「なんだ?」

「どうぞ」

 カウンター席の奥でチョロチョロと動きながらミアがカップを出し、おゆをわかしながら小さな小箱を出そうとしていたが微妙に身長が足りず、ピョンピョンと飛び跳ねていた。

「おい、怪我するぞ」

「だい、だいじょ、大丈夫・・・で、うぁっ!」

 飛び跳ねながら出していたもので、少しずつ小箱が動きやがて手前まで来たタイミングで中身の重さからミアの居る手間へ落ちてきた。

 落ちた先にはミアの頭部があり、見事クリンヒットしてしまう。

「言わんこっちゃない」

「痛いでぅ~。あ、コレコレ」

 いつもの事なのか、痛いと言いつつ頭をさすりながら何かをごそごそとあさり、小箱の中から銀色の包みでくるまれた何かを取り出していた。

 銀色の包みを手早く開け、その中にスプーンを突っ込み何か細かな茶葉の様なモノを取り出しポットの茶こしへと出す。

「えへへへ~」

 何が楽しいのか、ニコニコと子供の様な無邪気な笑みを浮かべ新たに微笑みかける。

 新はといえば、そんな子供っぽい女性の笑顔を見て。

「(久しぶりだな、人の笑顔なんて見たの)」

 そんな事を思っていた。

 出社のバスの中はぎゅうぎゅう。

 立って居るサラリーマンの顔と肌色は悪く、死んだ魚の目といば分かりやすいほど生気の無いそれは自分もなのだろうと思わせるほどで、会社に付けばさらに血の気の悪い人たちが、目を血走りさせながら黙々とパソコンや、書類整理に追われる毎日。

 日本はいつから、覇気のない顔で仕事をする社会になったのだろうかと、昔の人に問いただしたくもある。

 そんな毎日だ、ここ数年、女性の屈託のない笑見た事が無かった。

 ボケっとそんな事を考えている間に、ミアがいそいそとまた動き出す。

 どうやらお湯が沸いたらしく、それをさきほどの意ゃ腰を入れたポットへと注いでいた。

 最初危ないのではないかと思ったが、思いのほか洗礼された動きで、所作がとても綺麗である。

 恐らくだが相当な数をこなしているのだろう、その動きと動作はすでに染みついているのかとても綺麗である。

 入れ終えるとスマホを取り出し指で何かを操作した後「これで良し」そう言って顔を上げてまた無邪気に新に微笑みかけてきた。

「甘いものはお好きですか?」

「え、なんだ藪から棒に」

「好きですか?」

「いや、だからな・・・」

「好きじゃないんですか?」

 これはアレか、好きって言わないと話が進まないか、好きか嫌いかを答えないと話が進まない感じなのか?

 そう直感的に面倒くさそうな匂いを感じ取り、新は一つ溜息を吐いた後。

「好きだ」

「そうですか!」

 花が咲いたような笑顔、というのはまさにこの事なのかといいたくなるほどに、ぱぁーっと嬉しそうにすると、トテトテと今度は店の奥へと姿を消していった。

 何をする気だと聞こうかとも思った新ただが、連日の地獄労働のせいでその言葉を投げかける気力さえなく見送る。

 

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