第6話 甘いベリーと社畜さん。
真紅に染まったベリーとスポンジと生クリームの生地。
口に運び咀嚼すればベリーの粒々とした食感と甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
その酸味をクリームの滑らかさが中和していき、最後にスポンジのふわっとした食感の中の甘さが際立って非常にバランスの取れた味わいが口を幸せへと運んでいく。
普段多忙でロクなものを口にしておらず、また甘いものなどお酒などしか好まなかった新にとっては驚きで動きが止まるほどだった。
「えへへ~」
どう美味しい? そう笑顔で訴えかけてくるミアに一瞬見惚れた後、慌てて新た墓をそらした。
「こちらもどうぞ」
すると見計らったかのようにミアがアンティークにティーカップに、琥珀色に近い紅茶を入れたティーカップをお皿に乗せて新の目の前に出してきた。
恥ずかしさもあり、向き直れずに居ると、再度、どうぞぉ。などと間延びした声で呼びかけられたので新は仕方なくカップに手を伸ばす。
口元までティーカップを持ち上げると、鼻の香りがぶわっと鼻を突き抜けていく。
思わずびっくりするが嫌な香りではなく、とても落ち着く良い香りなので、思わずへぇっと思ってしまう。
そのままカップに口を付け口に含めば、まるで体が花畑に全身を預けてしまったかのような感覚におそわれ、とてもリラックスできた。
「おいしい」
特に意識などしていないが、自然とその言葉紡がれ、その事に自分自身でも驚きを隠せずにいた新。
「えへへへ」
新の言葉を聞いてさらに気の抜けた笑顔を向けてくるミアに、このシスター本当になんなんだ? と新は口には出さないがそう思う。
でも自然と嫌だという気持ちは沸いてこず、どちらかといえばありがたいという言葉が当てはまるような、妙な感覚だった。
「あの、この後どうなさるのですか?」
ミアの言葉に新は現実に戻された。
そうだどうすれば良いと、自問自答をしながら考え出てきた答えは。
「人生が終了のお知らせを迎えたので、死ぬしかないんだが・・・・」
「あら、そうなんですか? なんでなんです?」
「お前この新聞見てないのか!?」
「貴方が載ってますね!」
なぜか楽しいものを見つけた子供のように目を輝かせながら、新が指さしながら訴えかける新聞に目を向ける。
「いや、だからな・・・・俺指名手配されてだな」
「ここにはおまわりさは来られませんよ?」
ミアの言葉にふと新は考える。
このシスターの言葉が正しいのであれば、確かにここに警察など来るわけがないのだろう。
ついでに言えば帰る方法刷らないのだが、それでも新にとっては新聞とシスターを見比べ「ああそうか、俺この件関係なのかもしれない」と思う事ができたのだった。
「良ければここで社畜になりましょう!」
「頼むから言い方を考えてくれ?!」
「へ? なんか貴方が社畜がどうのって言っていたので・・・・」
額に掌を当てながら、俺は寝言で何を言っていたのだろうかと、新は美味しい紅茶とケーキを楽しみながら目の前の無邪気な笑顔にどう向き合えば良いのかと、悩みを増やしてため息をついたのだった。
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