第2話 ポンコツシスターは警戒心0

2話 ポンコツシスターは警戒心0

 10月25日 10時36分 教会内部。

 早朝、市の郊外にある、ちょっと古ぼけた教会。

 その中の小さな部屋で、新はゆっくりと目を覚ました。

 見上げれば見知らぬ天井。

「ああ、あの主人公こんな感じだったのかなぁ・・うぅ、気持ち悪い」

 まだ昨晩の疲労が残っているのだろうか、上半身を起こすだけで吐き気と眩暈に襲われ、思わず顔をしかめる。

「で、ここ何処だ・・・なんで全裸なの俺?!」

 それと同時に、自分の両方の鼻の穴にティッシュが詰め込まれており、新はそれらの詰め物を取ると。

 乾いていたのだろう、バリバリという感触と音、それから鉄サビの匂いが鼻を付き上げていき、思わずまたも顔をしかめてそこでふと思い出す。

「マシュマロおっ・・・おっと、品性は大切だ」

 思わず思った事が口から付いて出そうになるのを止め、苦笑する。

「あ、会社・・・・もういいか、これ以上何もできる事はないし」

 ブラック企業戦士はまぁまぁこの反応をするらしいとどこかに書いてあった。

 会社が傾こうがブラックだと分かりつつ、それでも何故か会社に行こうとするという矛盾に満ちた行為を永遠繰り返す。

 やめよう、辞めたいと思いつつ、朝出社し、気が付けば夜中。そして夜中なので就職先を見つけるなんて事も出来ず、そのころには思考も低下していて、寝たいしか口から出てこない始末なので、結局これをループするのだ。

 そんなもはや帰る場所も、仕事も失ってしまった自分がこのような事を考えても意味はないと、考えていた時出入口であろう扉がそっと開かれ、小さな頭がひょっこりと顔をのぞかせた。

 その頭は恐る恐るという感じで部屋えと来て、最終的に顔をのぞかせる。

 幼さが残るその顔を見て、あ、この娘は昨晩見た全裸美女だとすぐに把握したがそんな言葉を口が裂けても言えるわけがなく、紡ぎそうになる口を慌てて塞いだ。

「あ、起きてますね。おはようございます・・・お口を押えて・・まさか気持ちが悪いのですか?!」

 女性は小柄な体格、と言ってもおおよそ160センチはあるだろうかという体で、ぴょこぴょこと新に近寄ると満面の笑みで朝の挨拶をしてきたが、新のあまりに不自然な態度に慌てて、具合が悪いのではないかと心配をし始めて声をかけた。

「いや、えっとこれは一種の自己防衛というか、つまり、まぁ何でもございません」

「そうなのですか?・・・具合が悪くないならよかったです」

 花の咲く笑顔とはまさにこれだろう、そう言えるぐらいに屈託のない笑みが新に向けられ、いかに自分が穢れた人間なのかという事を思い知らされているかのようで居たたまれなくなる。

「あの、俺はいったい何がどうなったんだ?」

 自分でもあんまりにも朦朧とした意識の中歩いていたためだろう、前後の記憶が完全に抜け落ちており、そもそも何処をどう帰ってきて何故この場所に行きついたのかさっぱりだった。

「えっと、こちらは三峰教会です。えっと宇都宮からだと北の方で。横山町です」

「・・・・は?! いやいや、そんなところに教会なかったけど?!」

「えっと、たぶん公式には無いですね」

 この女性が何を言っているのか新はまったく意味が分からなかった。

「あの、どういう事なんですか?」

「私たちのいる三峯教会は、望んだ人しか行きつけない不思議な場所。私はココの管理に人のミア・シス・テルミアと申します」

 彼女、ミアは恭しく頭を下げると、その綺麗なブロンドのサラサラした髪の毛が、サァ~と少し小気味の良い、布と髪の毛がすれる音を出しながら顔を隠すように下へとなびく。

 長さは、セミロングという所だろうか、シスター服が黒なため、そのブロンドが一層際立つとともに、その白い素肌がさらに黒を白のコントラストを描いて、非常に彼女には似合っていると言わざるおえない風貌だった。

「俺は、新・・・・仕事失って住む場所も燃えた・・・」

「ああ、何やら昨日の昼間激しく全焼したらしいアパートの方でしたか。心中お察ししますので、いくらでもここに居てくれていいのですよ」

「・・・・いや駄目だろ?」

「何故です? お家ないのでしょ?」

「年頃の娘が、無暗にこんなおっさん泊めたら駄目だろ!」

「言ったじゃないですか・・・・ココは、望んだ人しか来れないのですよ」

 彼女、ミアは悪戯を思いついた子供の様に、無邪気な笑みを見せながらそう言い放ったのだった。

 新はと言えば、こいつマジか?! という気持ちでいっぱいだったのは言うまでもない。

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