ポンコツ美少女シスターに拾われ、甘々にされた件

藤咲 みつき

第1話  プロローグ。拾われた。

1話 拾われた。

 10月15日 24時52分 栃木県 宇都宮市 某所

 何がどうなったのだろうか、気が付けば新庄 新はボロボロで意識がもうろうとしていた。

 何が起きたのかと言えば、まずい連日連夜の残業、朦朧としながら家に付けば、アパートは跡形もなく黒焦げで、残ったのは金と、今着ている服だけ。

 さらに、ここ2ヶ月会社から給料は払われておらず、生活はけっして余裕があるとは言えない事だったのだが。

 悪い事と言うのは立て続けに続くもので。

「はぁ? なんて?」

「(社長が逃げた。ついでに破産宣告して、会社は倒産。社員は全員指名手配・・・つまり、逃げろ・・・・・じゃ、そういう事で、俺も逃げるんで・・・・お前との仕事楽しかったぜ!)」

 ブツ・・・ツー、ツー。

 スマホから鳴り響く虚しい電子音、更に最悪な事にポツポツと鼻先に雨粒が当たり、程なくして本降りになり始めた。

 夕方から降り始めた雨、黒こげの自宅、焼け焦げたにおいが鼻を付き、連日の疲労から何も考える事が出来なくなり、フラフラと彷徨う様に歩き始めたが、行き場などもちろんあるわけがない。

 先ほどの電話の内容が真実ならば、時期に警察が自分を探す事だろうと思いつつ、新はフラフラと歩みを進める。

 朦朧とする意識の中、気が付けば町にある教会の前に立っていた。

「おいおい、俺は誰に許しを請うってんだ?」

 彼女も居ない、職も失い、住む場所すら失い、金も恐らくは指名手配されるのであればあったとしても使用は不可能だろう。

 つまり積である。

 特に悪いことなどしていなかった。

 ただ、ただ仕事をして、上司の命令に従い、連日連夜、残業を繰り返すブラック企業に勤めていたしがないサラリーマンだった。

 しかし、真面目に生きている人間ほど、こうして気が付けば何もかもを失うのかもしれない。

 俺は馬鹿であるのだろうと、ゆっくりと視界が歪む中、教会の入口で倒れ込んだのだった。

 ああ、このまま死なせてくれ・・・。

 新はそう願いながら、冷たい地面に何の受け身も取ることなく、顔面から突っ込んだのだった。



 雨音は激しく、そのザーとポタポタと落ちる雫の音が耳を貫き、雨の冷たさは身も心もジワリジワリと侵食し、冷やしていく。

 10月の真夜中、地面に倒れ雨に打たれれば、それなりに体も堪えるだろうと新は思いつつ、疲労で動かない体を無理やり起こすこともせず、ただただ雨に打たれる。

 このまま死んでしまえれば、そう思いながら目をつむると、連日の疲労からか、寒さを無視して意識がプ釣りと途切れた。

 ズルズルと何かを引きずる音。

 皮膚がこすれ、熱を帯び、痛みを感じはするが、それよりも瞼は重くのしかかられているかのように一切ピクリとも開こうとしない。

 痛いと感じるという事は、まだ生きているのだろうが、なんだまだ生きているのかと、落胆する気持ちが先に立ち、ガッカリもする。

 やがて、何か重い扉が開く音が耳に届き、額を濡らしていた雨粒の冷たさがプツリと消えた。

 何か柔らかく暖かな感触が肌に触れ、髪の毛に触れ、声が聞こえるが、何を言っているのか良く分からず、何ともくすぐったい気持ちになる新ただったが、そこまでが限界だった、意識がさらに泥沼へと沈み、気が付けば真っ暗な闇に包まれていた。



 意識が浮上する感覚に見舞われ、ゆっくりと重い瞼が開く。

 まず新の目に映ったのは綺麗な黒髪だった。

「あぁ? はぁ・・・・」

 次に、うなじが顔をのぞかせ、そしてうなじの下へと視線を下ろせば、きゃしゃな背骨と白い素肌が目に飛び込んでくる。

「そうか、死ねたのか」

 おそらくこれは女性の裸体だろう、死んで天国に行き、望む綺麗な黒髪とうなじ、背骨と素肌が見えているのだろうと。

 新は次に自身の恰好を見る、見事に何も身に着けていない事に気が付き、やはりこれは天国へ行けて、俺は死んだのだと、そう確信を持てた新ただったが、妙に感覚がリアルで、それが生々しさと、自分が死んでいないと突きつけられている気がして嫌だった。

「いや、あんな雨の中、夜中に倒れたら死ぬよな」

 自問自答して、答えを求めるが、それに答える者はだれもおらず、ただただ静けさが辺りを包んでいた。

 しかし、ここはどこなのかと、周囲を見渡そうとした時だった。

 新の目の前でスヤスヤと寝息を立てていた女性が、うぅっ、と言いながら寝返りを打つと、その綺麗な黒髪が首元に巻きつきつつ、胸元がプルンという音でも立ててしまいそうなほど柔らかなソレが、新の眼前にお目見えする。

「はぁ?! マジ全裸?!」

 綺麗な顔立ち、整った瞼、小さくも潤いのある唇、小顔でありながら、決して大きくもなく、かといって小さくもないソレ。

 あまりの整った美少女に思わず生唾を飲み、震えだす新ただったが、それよりも問題なのは、これが現実なのか、それとも新の妄想なのか、はたまた何かもっと別の犯罪的な何かに巻き込まれたのか。

 どちらにしろ役得ではあり、据え膳食わぬは男の恥、という言葉が頭をよぎり、右手をそっとその綺麗な顔に手を伸ばそうとした時だった。

 その美少女の瞳がゆっくりと見開かれ、二重瞼の綺麗な瞳が新をとらえる。

 新はと言えば、思わぬ事態と、この状況から自分がどういう扱いになるのかをすぐに悟り、血の気がサーと引いていく。

「あ、起きたのですね、おはようございます!」

 勢いよく腕を地面につき、上半身を起こす、と同時に女性特有の甘い香りが鼻を付き、眼前にはや若なマシュマロの様な白く丸いものが、ポワン、と弾みながら新の視界を遮った。

 ソレを見て、寝起き、連日の徹夜がたたったのか、一気に顔に血液が来たのか、この年になって鼻から鼻血をドボドボと流し、それと同時に新の視界が真っ白になる。

 意識はそこで気が付かぬ前に途切れ、ただ白くなる視界の中、女性の慌てふためいた声だけが耳に遠く聞こえてきたのだった。


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