第五話 後編
「……こんなに哀しい“わたしを忘れないで”もあるんですね」
ワスレナグサの話を聞き終えた喜久夫が哀しそうに言うと、暦は静かに頷いた。
「引っ越しなどのお別れの際の“わたしを忘れないで”は再会を期待出来る分、まだ前向きですが、この方の“わたしを忘れないで”は心からの叫びですからね。
今の幸せを嬉しく思う中でかつてのような付き合いもまたしたいと思っても、記憶がまったく戻らない上に恐らくその実さん以外は
現在を生きながらも実さんは
「気持ちはわかりますけどね。でも、もう戻らないなら、新しい思い出を作っていきながら未来へ向かうしかない気はします。実際に同じ事になったら、そんな事は言えないのかもしれませんが」
「私もそう思います。因みに、出会ってまだ一週間も経っていませんが、花枝さんは私を忘れないでと私から言われたら忘れないと約束出来ますか?」
「……出来ますよ。というか、こんなに不思議な体験をさせてもらってるからこそ、忘れられないと思いますけどね」
「たしかにそうですね。さて……それではお仕事に戻りましょうか」
「はい」
喜久夫は頷きながら答えた後、再び掃き掃除を始め、その様子を暦は静かに見つめていた。
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