四月五日 ワスレナグサ
花言葉には色々あるけれど、私のように特定の相手に対しての愛に特化した花はそうそうないんじゃないかと思う。何故なら、私の花言葉は“わたしを忘れないで”や“真実の愛”なのだから。
そして、私にもそんな相手への愛に生きた人についての記憶はある。幼い頃からずっと一人だけを愛してきた一人の男性についての記憶が。
その男性の名前は
私が何度枯れても咲いた時には実さんと出会えていて、その度に実さんは私を蕾花さんに贈っていた。実さんは自分の気持ちをちゃんと伝えたいからという事で毎年わざわざ私を咲かせては贈り、それと同時に好きだと言葉でも伝えていた。
もっとも、蕾花さんは友情という意味で自分も好きだと答えており、それを聞いた実さんは表には出さずにまだ届かないのかと考えながら帰っていくけれど、私は知っている。蕾花さんも本当は出会った時から実さんを好きで、友情という意味で好きだと言うのは照れ隠しなのだと。
そんな中、二人の関係に暗雲が立ち込めるような出来事が起きた。蕾花さんが交通事故に遭い、記憶喪失になったのだ。日常生活は出来ていたものの、家族や友人の事が頭からすっぽりと抜けていて、実さんについてもそれは例外じゃなかった。
それでも実さんは度々お見舞いに行ってはその度に私を少しでも気晴らしになればと言って贈り、退院後も不安がる蕾花さんの気晴らしのために色々なところへ連れていって記憶が戻るように祈った。けれど、蕾花さんの記憶は戻る気配は無かった。
そんな時、献身的な実さんの姿に蕾花さんは記憶を失う前に持っていた恋心を再燃させ、蕾花さんから告白した事で二人は付き合い始めた。付き合い始める事が出来た事自体は実さんにとって嬉しい事だったけれど、記憶を失っていた蕾花さんは前よりも落ち着いた性格になっていて、その事を実さんは少しだけ哀しそうに見ていた。
そうして二人はずっと一緒に時を過ごし、記念日や相手の誕生日には私を贈る中で子供や孫も出来て、一般的には幸せな一生を過ごしていた。
だけど、私はいつまでも忘れられないだろう。前までは私を見る際に頑張ろうという気持ちでいた実さんが哀しそうな顔をしていた事、そして真実の愛を誓いながら、わたしを、かつてのわたしを忘れないでほしいと実さんが涙を流していた事を。
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