第四話 後編

「……なるほど、そういう人もいたのか」



 カスミソウの話を聞き終えた喜久夫が呟いていると、暦は他の花の水換えをしながら頷いた。



「世の中には色々な趣味嗜好を持った方がいますからね。男性であっても可愛らしい物が好きな方や女性であってもカッコいい物が好きな方、中には他人から忌み嫌われる物が好きな方もいますし、周囲に迷惑をかけるわけでなければ、人の好きな物に対して他人がケチをつけるのは良くないことだと思います」

「同感です。因みに、語部さんの好きな物って何ですか?」

「花はもちろんですが、誰かの話を聞く事も好きですよ。私自身にあまり話すべき過去がないからでもありますが、話すよりは聞く事の方が好きです」

「そうですか。それなら、この花達の話を聞きながら商売をするという形は天職かもしれませんね」

「私もそう思っています。花枝さんは──」



 その時、店にはまた別の客が来店し、二人の視線はそちらに向けられた。



「まずはお客様の対応ですね。いらっしゃいませ、どちらをお求めでしょうか」



 そう言いながら暦が客に近づく中、喜久夫は手の中のカスミソウに視線を向けた。



「好きな物……“俺”の好きな物って何だっけな……」



 カスミソウを見ながら呟く喜久夫の声はどこか悲しげで切なさに満ちた物だった。

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