四月四日 カスミソウ

 昔、私はある男の子の家にいた。その男の子は少し中性的な顔立ちをしていて、男の子らしいカッコいい物よりは女の子が好みそうな可愛い物が好みだった。


 その子の名前は春日かすが澄夫すみおといい、お家は空手の道場をしていた。澄夫君も道場主であるお父さんの言いつけで、空手の稽古に励んでおり、体つきも少しずつがっしりとしてきたけれど、本人としてはやっぱり可愛いものが好きだった上に門下生達から将来の道場主として期待されるのが嫌だったからか稽古終わりには一人涙を流していた。


 けれど、お父さんは別に澄夫君が継ぎたくないならそれはそれで良いという考えを持っていた。お父さんもお母さんも澄夫君の嗜好には別に嫌悪感は抱いていなかったし、嫌がるのに強制するのは良くないという考えをしていたのだ。もっとも、門下生達の士気を下げるわけにはいかないからそれを口には出来ていなかったけれども。


 そうして澄夫君が空手の腕を更に上げていったある時、道場に清畠きよはた心菜ここなという女の子が入ってきた。心菜ちゃんは少し内気な子で、その性格を直したいという理由で習いに来ていて、男ばかりだった門下生は正直対応に困っていた。


 そのため、澄夫君が主に練習に付き合っていたが、澄夫君の教え方は実に丁寧な上に親切で、心菜ちゃんはみるみる内に上達すると、入門して一年で大会でも上位入賞することが出来た。


 澄夫君がそれを自分の事のように喜んでいると、心菜ちゃんはカスミ先輩のお陰だと言った。それを聞いた澄夫君が不思議がっていると、心菜ちゃんはしまったという顔をした後に澄夫君の事を名字と名前を組み合わせたらカスミとなる事やカスミソウの花言葉のように清らかな心を持った親切な人だから、そしてがっしりとした体格ではあっても可愛らしさを感じるという事からカスミ先輩と一人で呼んでいたと話した。


 それを聞いた澄夫君は少し驚いたようだったけれど、門下生の一人が自分に対してそこまでの事を思ってくれていたのだと感動して涙を流し、これからは可愛いもの好きである事を隠さずに生き、同じように可愛いものが好きでも武道などを極めて良いのだという証になるために道場主も目指すと心菜ちゃんに誓った。


 その後、澄夫君はちゃんと道場主にもなり、奥さんとなった心菜ちゃんに支えられながら可愛らしい男性道場主として有名になり、そんな人のようだと言われて私もその姿を見守りながら少し誇らしい気持ちになっていた。

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