第四話 前編

「ありがとうございました」



 クローバーの冠を持った女性が暦のその声に対して嬉しそうな表情で会釈し、『語部生花店』を出ていく中、それを見ていた喜久夫は少し驚いた顔をしていた。



「あのクローバーの冠、結構早く売れていきましたね」

「私も出来るだけ綺麗に作ったつもりですからね。あのお客様は娘さんがいらっしゃるそうなので、きっとあの冠は娘さんに贈られるのだと思います」

「頑丈には出来ていますし、おままごとに使ったとしても中々壊れないでしょうからね。もし本当にそうだとしたら、その娘さんも喜んでくれますね」

「私もそう思います。さて、そんなクローバーですが、今日もそれに近い花言葉を持つ子が話したがっているんです。そして、それがこの子なんですけどね」



 そう言うと、暦は一輪の花を手に取った。



「これは……カスミソウ、でしたっけ?」

「そうです。主に夏が旬のお花ですが、春である四月の誕生花でもあるんです。因みに、英語ではベイビーズブレスと言いまして、赤ちゃんの吐息や愛しい人の吐息といった意味になりますね」

「見た目もそうですけど、なんだか可愛らしい花ですね」

「そうですね。では、ちょっとお話を聞いてみてください」

「わかりました」



 喜久夫は頷いた後、受け取ったカスミソウに耳を近づけた。

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