四月三日 アスター

 私の中にある一番の記憶、それは幼い子供達の恋の記憶だ。その子達はそれぞれ菊川きくかわ夢花ゆめか、そして聞川きくかわ明日斗あすとと言い、二人は本家と分家という親戚同士の関係だった。


 夢花の菊川家が本家、明日斗の聞川家が分家であり、音が同じで字が違うのはどうやら聞川家の先祖が結婚で菊川家を出る際に仏花である菊がつくその名を名乗りたくないと思った事が原因のようだった。


 その後に“菊”を“聞”の字に変え、それが本家の逆鱗に触れた事で長いこと菊川家と聞川家は断絶していた。


 しかし、その因縁も時が経つにつれて少しずつ無くなっていき、遂に聞川家の当主一家が本家である菊川家を訪れた事で夢花と明日斗は出会った。


 二人とも自分達の家の事については当主である父親から聞いていたが、初めて出会ったのがまだ小さな子供の頃だった事もあって、二人はすぐに仲良くなり、二人の要望で両家は度々会うようにもなった。


 その結果、二人の間には恋の花が芽生え、相手への愛の言葉と両家の関係の回復という水と栄養は少しずつその花を育てていき、二人は成人すると同時に晴れて夫婦になった。


 私は明日斗が初めて夢花に贈ったアスターでもあったため、その恋の行方を本人達と同じ近さで見ていて、どこかで気持ちのすれ違いが起きてしまわないかといつも心配をしていた。


 けれど、ある時に明日斗と夢花が縁側に座りながらしていた会話の内容を聞いて私はもう心配はいらないと感じた。



「夢花さん、あのアスターの花言葉は知っているかな?」

「ええ、もちろん。変化に追憶、同感、そして信じる恋でしょう?」

「そう。僕は君へのこの恋心は永遠だと信じている。たとえ、僕達の生活が変化したとしても、この恋心は信じられる物だと君に感じてもらい、いつか一緒に追憶に更けたいと思っているんだ。今のように隣同士で座ってね」

「私も同感よ。昔は両家の関係は良くなかったようだけど、私達がまた良いものにしていけば良い。明日斗さん、私の事を永遠に愛してね」

「ああ、もちろんだとも」



 その後、二人は静かに口づけを交わした。その美しく若さ溢れる光景を見た瞬間に私は両家の関係は今後もより良いものになり、二人は両家の関係の橋渡し役として永遠に語り継がれるだろうと感じた。


 それだけ二人の愛はたしかな物であったし、私の花言葉を会話の中で自然に使える程の二人ならばずっと気が合い続けるはずだからだ。

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