第三話 前編

「おはようございます」



 朝、喜久夫は『語部生花店』のドアを開ける。カウンターには既に暦の姿があり、暦は喜久夫の顔を見ると、嬉しそうに微笑んだ。



「おはようございます。改めて今日からよろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくお願いします。それにしても、まさか自分がこうして生花店で働く事になるとは思いませんでしたよ」

「誰しもそういった事はあると思います。世の中とは変化に満ちているようですから」



 そう言いながら暦は一輪の花を手に取った。



「その花は……?」

「これはアスターという花で、和名はエゾギクといいます。キクというだけあって、仏花のイメージが根強いようですが、夏の切り花としても人気で、様々な色や形もあるんですよ?」

「そうでしたか。それで、今日はそのアスターから話を聞いていたんですか?」

「その通りです。この子達はそれぞれ自分が誕生花であると言われている日にお話をしてくれるので、私は毎日が楽しみですよ。話の内容もその時によって違いますしね」

「毎年違うならそれは楽しみにもなりますね」

「そういう事です。では、お仕事前に花枝さんもこの子のお話を聞いてみませんか?」

「はい、せっかくなのでそうさせてもらいます」



 喜久夫はカウンターに近づき、暦から赤いアスターの花を受けとり、ゆっくり耳を近づけた。

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