第二話 前編

「こんにちは」



『語部生花店』のドアを開けながら男性は中へと入る。その姿に店主の女性は微笑んだ後、男性の手の中にある物へ視線を向けた。



「書いてきて頂けたんですね、履歴書」

「はい。今は失職中でしたし、働き口があるならありがたいので」

「わかりました。それでは、内容を確認するのでそれを受けとりますね」

「はい」



 返事をしながら店主の女性にクリアファイルに入れた履歴書を渡していると、カウンターの上に載っている物へ男性は視線を向けた。



「これは……クローバーの冠、ですか?」

「その通りです。先日、ようやく完成したもので、売り物として置こうと思っているのです。加工をしているので萎れたり枯れたりはしませんし、サイズ的に小さなお子さんへのプレゼントなどにちょうど良いかなと思うのです」

「たしかにそうですね。因みに……このクローバー達も喋るんですか?」

「話はしてくれますよ。ただ、今日はその中心にいる四つ葉のクローバーだけですね」

「……あ、良くみたらたしかにありますね」

「ふふっ、私が履歴書を見ている間、お話を聞いてみてはいかがですか?」

「……そうですね。せっかくの機会なのでそうしてみます」



 男性は静かに頷きながら答えた後、冠へと耳を近づけ、意識を集中させた。

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