第一話 後編

「……はっ!」



男性は声を上げると、辺りをキョロキョロと見回す。しかし、いるのは店主の女性のみであり、男性は不思議そうに再び辺りを見回した。



「あれ……い、今のは……?」

「今のがこの子達のお話です。花達は何度も生まれ変わる事で記憶を蓄積させ、それをこうして話してくれるのです。人間や他の動物と違って、花達の一生は短いですから」

「そういえば、このサクラも何度も生えては散ってを繰り返してきたと言っていましたね」

「そういう事です。これで理解してもらえましたか? この生花店に“語部”という名前がついている理由が」

「……わかりました」



男性が静かに答えていると、店主の女性はクスリと笑ってからカウンターへ向かった。そして引き出しから一枚の紙を取り出すと、それを男性へと渡した。



「これをどうぞ」

「これは……履歴書、ですか?」

「はい。もし良ければ、ここで働いてもらえないかと思いまして」

「僕がここで……でも、一体どうして……」

「花達が話をする相手は限られていて、私はそういった方ならばここで雇いたいと思っているのです。貴方に話を聞いてみてはと言ったのも貴方ならばと思ったからなのです」

「そうだったんですね」

「さて、どうでしょうか。ここで働いてみる気はありますか?」



店主の女性の紫色の目が男性を見つめ、その吸い込まれそうな程に綺麗な目に男性は一瞬見惚れた後、静かに口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る