◇5◇ こたつ 2024年お年賀
2023年12月31日、
一角と千角がアパートでテレビを見ながらみかんを食べていた。
今日は12月31日だ。
二人は夕飯に年越しそばを食べた。
注連縄や鏡餅は飾ってはいない。
テレビではお笑い番組をやっている。
「人の世界の大晦日ってこんな感じかな?」
一角がテレビをぼんやりと見ながら言った。
「なんかよく分からんけどな。」
千角もこたつで横になり言った。
こたつは豆太郎が教えてくれたのだ。
「暖房器具だがな、
一度入るとなかなか出られなくなる魔法の器具だ。」
と彼が言うので二人はそれを購入したのだ。
「こたつは豆太郎君が言った通りだったな。」
「うん、これはヤバイね。
ばあちゃんにも買ってやろうか。」
「そうだな。」
テレビでは漫才コンビが映っている。
「ところで豆ちゃん今日来るって?」
「ああ、年越しの時に来るって。」
「衣織さんとか。」
「ああ、鬼頭さんも顔を出すって言ってた。」
テレビの漫才師が言う。
『お前、それは来年の事やろうが!』
それを聞いた途端、二人は吹き出した。
「来年だってよ。」
何がおかしいのか二人には良く分からないが、
来年のことを言うと妙に可笑しいのだ。
『来年結婚すると言うても相手がおらんやろ!』
『だから来年探すんや!』
一角と千角はそれを聞いて笑いが止まらなくなった。
しかしテレビの中の聴衆には受けはいまいちだ。
効果音の笑い声だけは派手だが。
「ち、ちょっと待て、これは変だぞ。」
と一角が涙を拭いながら言った。
「精神攻撃か?
なんでそんな事が俺達には面白いんだ?
スタジオの人には受けてないぞ。」
一角がスマホで調べる。
「こんなことわざがあった。
来年の事を言えば鬼が笑う、だって。」
一通り二人は笑うとスマホを見た。
「なんだよ、呪術的縛りかよ、
くそっ、人にこんな攻撃法があるとは。」
千角が悔しそうに言った。
「ちょっと試してみるか、パリの夏季オリンピック。」
一角が言うと二人はげらげらと笑った。
「くそっ、そんなので笑えるなんて、俺は情けない。
じゃあ、ハローキティちゃん生誕50周年。」
二人は腹を抱えて笑った。
その時だ、玄関の扉がノックされた。
「何笑ってるんだ、お前ら。」
豆太郎が入って来る。その後ろには衣織がいた。
「ああ、衣織さん、久し振り。」
「ご無沙汰です。」
彼女はにっこり笑うと頭を下げた。
髪を伸ばして前より女性らしい印象になっている。
「私もお邪魔するよ。」
と鬼頭も入って来た。
「やっぱりこたつを買ったのか、良いだろう。」
豆太郎がにやにやとこたつを見た。
「豆ちゃん、確かにこれはヤバイ代物だよ。
出られない。」
「ちゃんと意見を聞いたお前らに差し入れだ。」
と豆太郎が言うと露店で買ったのだろう
色々な食べ物が出て来た。
「私も持って来たからね。」
と鬼頭も差し入れを出した。
「忘年会だな。」
と皆が楽し気に話し出す。
するとテレビではカウントダウンが始まった。
そして年が明ける。
「ところでお前達さっき物凄く笑っていたけど
なんか面白い番組でも見てたのか?」
豆太郎が聞くと一角と千角が顔を合わせた。
「パリオリンピックとか
キティちゃん50周年とか……。」
だが今はそれを聞いても二人は全く面白くない。
「それで笑えるのは少しばかり妙じゃないか?」
豆太郎が首をひねる。
だが一角と千角は分かった。
年が明けたので面白くなくなったのだ。
「まあ良いじゃん、喰おうぜ。」
「そうしな、でもあんた達も一緒に神社に行けばよかったのに。」
と鬼頭が言う。
「だめですよ、鬼頭さん、神社とかには注連縄があるし。
あれちょっと嫌なんですよ。」
「ああ、そうか、あんた達鬼だもんな。」
と皆はげらげら笑った。
「ところで衣織さんはいつ帰るの?」
「私は3日よ。それまで鬼頭さんの所に泊めてもらうの。」
「豆ちゃんの所に泊ればいいのに。」
「駄目だよ、嫁入り前の娘だろ?豆ちゃんに何されるか分からん。」
「鬼頭さん、ひどいなあ。」
「おばさんの経験を舐めちゃいかんよ、
衣織ちゃん、気を付けなよ、所詮男は狼だからね。」
「豆太郎君は狼じゃなくてワンコですよ。
撫でてやれば大人しいもんでしょ?
ねえ衣織さん。」
衣織がふふと笑う。
「いざとなったらガツンと行きますから。」
衣織がかなりの剣士だと皆は知っている。
皆はどっと笑った。
その中で豆太郎だけが苦笑いをしていた。
だがこたつの中では衣織と豆太郎はしっかりと手を握っている。
それは他の者からは見えない。
こたつだけが知っている秘密だ。
◇◇◇◇
今年もお暇でしたらぜひ読みに来てください。
お待ちしています。
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