◇4◇ ラリーカー




「お前ら、また来たのか。宝探しか。」


豆太郎は千角に呼び出され、いつものファミレスに来た。


「いや、今日はパフェを食べに来た。

新しいフェアが始まったからさ。」


千角がにやにやしながらメニューを見た。


「これこれ、」


千角が指さす写真には巨大なパフェがあった。


「バケツパフェ、要予約……。」

「だから豆ちゃん、呼んだんだよ。」

「予約したんなら早く言えよ、飯喰って来ちゃったよ。」

「豆太郎君なら食べられるだろ。ほら来た。」


テーブルの上には巨大なピッチャーが置かれ、

そこにはどっさりと甘味が入っている。


「ひゃー、美味しそう。」


一角と千角は喜んで写真を撮っている。

周りに座っている人も興味深げにそれを見た。

豆太郎は少しげんなりとした。


「いっただきまーす。」


鬼二人は嬉しそうに食べ始めた。


「ところでお前らここまでどうやって来たんだ。」

「今日はレンタカーを借りたんだ。

僕達もちょっとドライブしたかったから

さっきまで走っていたんだよ。」


一角が言う。

豆太郎は以前の彼の運転の様子を思い出して

少しぞっとした。


「お前、大丈夫だったんか?」


豆太郎が恐る恐る聞く。


「ああ、豆ちゃん、それはもう何ともないよ。」


と千角が言った。


「何ともない?」

「うん。ラリーカーは鬼界きかいでやってる。」

「鬼界?」

「一角が鬼界でステージを作って運転してる。

それで俺がナビをやってるんだ。」

「???」


一角がパフェのバナナを突き刺した。


「鬼界でダートとか作ったんだよ。

一週間単位で地形が変わるようにしたんだ。

そこを千角にはナビをやってもらって僕が走る。」


豆太郎はぽかんとした顔になった。


「俺、ラリーってどんなもんかなと思っていたけど、

あれは無茶苦茶走っているんじゃなくて、

ちゃんと地形とか考えて正確に計算して走らないとダメなんだな。

一角向きだよ。ナビをして分かった。」

「千角は思ったより保守的だからな。

だからちゃんと地形を調べて教えてくれる。

教えるタイミングもばっちりだし。」


豆太郎はその話を聞いて優しい顔になった。


「この前は千角が焦って電話をかけて来たけど、

いい具合に収まったんだな。」

「豆ちゃん、ごめんな、

でも今はこんな感じで一角も落ち着いたし、

こっちでは大人しく運転してるよ。今日は一角も運転したんだよ。」


豆太郎はほっとした。


「そうか、良かった。

しかしまあ、ここのパフェはやっぱり美味いな。」


皆はしばらく食べ続ける。


「ところでラリーのステージってどんな感じなんだ。」

「僕が最初に作ったのは普通の凸凹のルートだよ。

でも獄卒の人が貸してくれって言ったから今は使ってないな。

そこは今は針地獄とか血の池地獄とか色々増えてるよ。」

「えっ……。」

「獄卒が車で人を後ろから追いかけるんだよ。

車関係で地獄に来た人を懲らしめるために。

俺も一度見たけど沢山人がいたよ。」

「……、お前らもやってるのか?」

「いや、やってないよ。

別のステージを作ったからそちらでタイムアタックをしてる。

人がいたら邪魔だろう?」


二人はにこにこしながらパフェを食べ続けている。

豆太郎はピッチャーの底に溜まっているラズベリージャムを見た。

何となく味がしなくなった。


「いやいやいや……、」


人の世が変われば地獄も変わる。

今は車社会だ。

地獄の様相も変わるだろう。


自分は絶対に安全運転を守ろうと豆太郎は思った。


「ところでこのパフェは奢りだよな。」


豆太郎が聞く。


「ダメだよ、豆ちゃん、一人二千円。」


それを聞くと豆太郎は慌ててパフェを食べだした。























◇あとがきらしきもの◇


安全運転しましょう。

車に限らず、バイクでも自転車でも

電動キックスケーターでも歩行者でも、

みんな気をつけましょう。


と私が言うまでもない当たり前の話です。


一角のラリーカーの話も書かなきゃなと思っていました。

私は詳しくはありませんが

ラリーカーのレースもテレビで見た事があります。


ナビがルートを読み上げるのをドライバーが聞き

激しくハンドルを操作するのを見て

これは二人とも大変だと思いました。

ともかくどちらも正確でないとダメですよね。


そして巨大パフェ。

一度大きなパフェを家族で食べた事があります。

案外と食べられるよ。

また食べたいなあ、と思って書きました。


要するに自分の中の欲望が小説を書かせるのですよ。

今はパフェね。



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