「今まで通り、お前に抱かれてればいいのか? ……黙って、オナホ扱いされてればいいのかよ。」

 吐き捨てたはずの言葉は、そのまま俺の胸に突き刺さった。

 黙ってオナホ扱いされてればいいのかよ。

 なあ、俺は、お前の実の兄貴なのに。

 「オナホ扱いなんかしたことない。」

 顔を上げないまま、弟が苦しげに言う。

 「好きだった。ずっと。」

 「ずっと?」

 「ずっと。」

 ずっとって、なんだ。

 同じ親から生まれ、同じように育てられ、同じように親をなくし、同じように姉に育てられた。

 そんなプロフィールの中で、どこをどうひねったら、実の兄貴を『ずっと』などというレベルで好きでいられるのか。

 「嘘をつくなよ。」

 唾棄した言葉は、今度も俺の胸に突き刺さる。

 ありえない。ただの嘘。俺たちは実の兄弟で、恋情なんか決してお互いに寄せてはならない。

 「ただの兄弟だっただろ。好きも嫌いもなかった。」

 「それはあんただけだよ。俺はあんたをずっと好きだった。」

 「ずっとって、なんだよ。いつからいつまでがお前の言うずっとなんだよ。」

 俺の語気は、勝手にどんどん激しくなっていき、それに比例するみたいに速人の言葉は力をなくしていった。

 「ずっとだよ。親父とお袋が死んで、3人になって、それからずっと。」

 ぽつんぽつんとこぼされる言葉。

 俺はそれを拾い上げることを拒否し、首を横に振った。

 「それは、恋なんかじゃない。ただの執着だ。」

 言葉は自然に出てきた。だって、何度も自分自身に言い聞かせてきた言葉だから。

 これは恋ではない。ただの執着だ、と。

 「じゃあ、なんでキスなんかしたんだよ。」

 弟が、不安定に揺れる声で問い詰めてくる。

 「一瞬でもあんたは俺のことを受け入れただろ。あれがなければ俺は、ここまでおかしくはならなかった。」

 なんで。

 そんなの、俺にだってわからない。

 ただ、あの夏の晩、真っ暗な部屋の中、二人の真ん中でしたキスは、確かな記憶として未だ俺の中に残っている。

 俺もお前に恋をしていたから。

 そう言えればどれだけいいだろう。

 けれど俺の唇は、躊躇って、躊躇って、言葉を生み出さない。

 「言えよ。」

 弟の両腕が俺の背中に回り、これ以上ないほどの力で抱きしめてきた。

 俺はとっさに腕を突っ張って拒絶しようとしたけれど、やはり俺は腕力で弟にかなわない。

 「言えよ。あんたも俺のこと好きだって。」

 


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