2
部屋の電気つけさせて。
そう言おうとした。
部屋が暗くて速人の顔が見られないのが苦しくなってきた。いつも、まともに顔を合わせたりなんかしないのに。
そして、ここは俺の部屋なんだ、電気くらい勝手につければいい、と思い至った俺は、ベッドから降りようとした。
けれど、速人が俺の肩を掴んで引き止めてきた。それは、もうびっくりするような強い力で。
痛い。
言葉にはしなかった。速人に痛めつけられるのはもう当たり前みたいになってきていて、いちいち言葉にするだけ惨めになる気がした。
俺は速人より力が強い。
そして、速人の腕力にいつも逆らえない。
つまり俺は今だって速人を愛しているのだろう。歪な形ではあっても。
「キス、しただろ。」
速人の掠れた声が降ってきた。
俺は唖然として速人を見上げた。
キス。
記憶は一瞬にして蘇る。
あの停電した真夏の夜、二人の真ん中でしたキス。
速人は俺を犯すとき、決してキスなどしなかったから、あれが最初で最後のキスだった。あのキス一つで、俺は速人に縛られたのだ。
「二度とあのときのことは言うな。」
言葉が喉の奥に引っかかって、上手く出てこなかった。
ただ、速人の口からあの夜のことが出てくるのは耐えられなかった。
俺が速人の肉便器になることが決定した夜。あの夜のことがなければ、俺は速人を腕力で退けることができたはずだ。
「どうして。」
速人の声は、ひどくこわばって聞こえた。それは、緊張している子供みたいに。
「どうしてだよ。あんたもあのときは俺のことを受け入れてくれただろう。……それっきり、だったけど。」
それっきり? 速人の言う意味が分からなかった。何がそれっきりだというのか。言うなれば、それからだろう。それから俺は、速人に身体を差し出した。
「それっきり、あんたは俺を受け入れなくなった。……心も、身体も。」
それっきり……。
俺は唇を噛み、肩を掴む速人の手を振り払った。
「勝手なこと言うなよ。俺をレイプしたのはお前だろ。そんな相手のことを、どう受け入れろっていうんだよ。」
「じゃあ、どうすればよかったんだよ!?」
速人が声を荒げた。
俺は速人の激高に驚いた。
驚く俺を前に、速人はまた俺の方を掴み、揺さぶりながら、確かに言った。
「実の兄貴に恋なんかしたら、俺はどうすればよかったんだよ!?」
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