露見

高峰さんの車を見送り、しばらくその場でぼんやりしていた。すると、背後から急に強く腕を引かれた。

 驚いた俺は、悲鳴じみた声を出しながら振り返る。するとそこには、今頃部屋で眠っているはずの姉が立っていた。

 「なにしてるの。」

 姉の声は、力強さを装おうとして失敗していた。喉の奥で声が震えている。

 「今の人が、大学の先輩? まさか、そんなわけないわよね?」

 ばれた、と思った。

 身体を汚し尽くしていた頃、姉にばれたらそのときは死のうと思っていた。

 けれど時とともに、その決意も薄れている。だから俺は、どうしていいのか分からず、この世で一番間抜けな案山子みたいに突っ立っていることしかできなかった。

 姉の手が、俺の腕を伝って肩を掴む。その手には、ぎりぎりと強い力がこもっていた。

 「どういう関係なの、あの人と。」

 高峰さんとの関係。

 そんなの端的に言えばセフレだ。でも、もちろん姉にそんなことが言えるはずもない。そもそもキスをしていた場面を見られたのかどうかさえ、まだ定かではない。墓穴を掘りたくはなかった。

 「……言ったとおりだよ。大学のOB。たまにドライブに連れて行ってもらって、悩み事を聞いてもらったりしてるだけ。」

 文字通り心身を削って、俺と速人の母親兼父親代わりをしてくれているこの人に、嘘をつくのは一種の恐怖でさえあった。でも、だからといって、本当のことなんか口が裂けても言えない。

 姉の細い指が俺の肩に食い込む。

 俺はうつむき、なんとか表情を隠そうとする。

 すると姉は、ぐっと何かを飲み込むような間の後、嘘をつかないで、と、呻くように言った。

 「あんたは、ただの大学のOBとこんな真夜中にでかけて、キスまでするの?」

 うっと、喉が詰まった。

 見られていた。どんな言い訳も及ばない場面を。

 「別にあなたがゲイだってそんなことはどうでもいい。でも、相手は歳上すぎるし、時間だってこんな真夜中なのよ。こんなの、どうかしてるわ。」

 「待って。俺はゲイってわけじゃない。」

 とっさに出た台詞が、完全に墓穴を掘った。

 姉は大きな目を細め、だったら、と、自分の中の感情を押し殺すように片手で胸を押さえた。

 「だったら、今のは何だったの?」

 今のが何だったのか。

 それを本気で話そうとしたら、俺は速人に犯されたことを姉に話さざるを得なくなる。まさか、そんなことができるはずもない。


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