第217話 右と左
よくわからない、理解出来ない。
一ノ瀬は、この達戦いが始まる前なら、そう考えて、思考を止めていただろう、だが、今は違う、先程の攻防を考えても、勝つ方法があるからこそ、今自分の前に、立っているのだと。
(お前が俺に勝つ方法は想像できる、その見えない右だろうな)
それは、セコンドの神田も同じ考えだった。
(あそこまで、やられても、戦う事を選ぶのは、一ノ瀬の弱点に気づいていてもおかしくはない)
一ノ瀬の弱点、それは、意識外からの打撃、一ノ瀬の異常な耐久力も、攻撃を耐える僅かな時間が必要であり、その事には、一ノ瀬自身も、また、神田も理解していた。
一ノ瀬は、何度も見せた余裕の笑みを、その白い歯を見せて構えた。
左手を顔に添え完全に守る形を取る、大袈裟にも見えるその構え、息をつく前に、北岡から間を詰めてきた。
打撃戦。
お互いの気持ちは、無言でぶつかる。
一ノ瀬は、右のミドルキックで北岡の左腹部を攻め、それを守り、北岡は左ミドルで返す。
一ノ瀬は、中間距離で間を詰めずに、蹴りをぶつけ合う、一ノ瀬は左側のみ。
北岡の顔面をみれば腫れがあり、視界が良くないはずだが、そこからの攻撃の起点は一ノ瀬は選択肢しなかった。
右側を攻める事は、あの『見えない右』がカウンターで打たれる可能性がある事、こちらの左側の守りが薄くなる事と考えていたからだ。
「しかくからせめないのは、あの右をよーじんしてるからだね」
阿修羅の確認に、父天外も頷く。
この試合に注目するのは、修羅だけではなく、2回戦に勝ち進んだプロレスラーレオも同じ、セコンドのメリッサと意見を交わす。
「一か八かで組み付きにいなかないのは、やはり右を用心してるな」
「でも、まぁ、このまま打撃で押し勝てるのは、一ノ瀬だね」
少しずつだが、一ノ瀬の圧が勝ってくる、体格差、体力を考えてもそれは、容易に想像できる部分でもあったが、それ以上に一ノ瀬の腹を狙う蹴りが北岡のスタミナを奪っていった。
思いの外、ガードの技術も上がってきている一ノ瀬に試合序盤よりも有効打が当てられない。
そして、また、北岡の防御反応も少しずつ乱れてきていた、一ノ瀬の牽制の為に繰り出された右のストレートが北岡の顔面を捉えた。
もし、これが、もう少し力を入れているならば決定打にもなりえるくらい完璧な手応え。
北岡は、後に少しふらつくが直ぐ様、ローキックで追撃を牽制した。
思った以上に疲労している。
一ノ瀬は、そう考えた、組んでも殴り合っても勝てる、気をつけるのは『右』再度そう思いながら、次の手を考える。
試合の結末は近い、お互い油断はなく、最善手の選択を止めない。
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