第216話 挑発
左腕で何度も殴られながらも、一度、俺かけた心は、友人の浦賀の声援で北岡の心は持ち直した。
しかし、気持ちがあっても、不利な状況は変わらない、この体勢から逃れれば、勝てる策は考えている、そして、今この瞬間に、脱出の策も考えついた。
「この程度か」
北岡は、傷ついた頭を抑える事も出来ず言葉を発する、一ノ瀬は、北岡の言葉で手が止まる。
「なんだと」
一ノ瀬は、聞き返す。
「その程度か、といった、喧嘩屋と言っても只の素人だな、その身体は飾りか、腕の無い男にビビってるのか」
一ノ瀬の眉がピクリと動く。
「なんだと」
「やってる事はピチピチと、パンチの打ち方も分からん偽物か」
一ノ瀬の笑みが消え、怒りにまかせ腕を大きく振り被る、身体を大きく動かした事により、密着していた身体に僅かながら、隙間か出来る。
(かかったな)
力を左手に込めた為、僅かに右腕の抑え込みも弱まる、北岡は、汗で滑るようにして、左足を抜き、前回りをするようにし、一ノ瀬から距離を取る。
密着からの回避成功。
北岡は、一ノ瀬を煽り、隙を生み出して逃げる事にしたのだ。
このトーナメントでは、恐らく一ノ瀬にしか通用しない手で本当にギリギリの手であった。
一ノ瀬は嵌められたと舌打ちした。
北岡は、大きく息を吐く、そして、北岡を密かに期待する、櫂も安堵のため息をついた。
(危なかったな北岡、さて、勿論次の手も考えてるんだろう、見せてくれよ、俺にも、まだ見せてない隠し手を)
北岡の、逃避先が自身のコーナーであったのは偶然であった。
サモ・ハンは、腫れた右の顔を見て、視界が大分奪われている事を理解した。
もう一度捕まれれば終わる、そして、打撃戦にしても、守りの弱い右側の視界が悪い、回避に問題が生じている。
勝率が下がっている事を感じていた。
北岡は、心配そうなサモ・ハンを見て声をかけた。
「大丈夫ですよ、先生」
腫れた顔に北岡は問題ないと伝え、話を続ける。
「覚えてますか、俺が、まだ学生の頃同じ様に顔を腫らした日の事を」
「もちろん、覚えてるよ、君が喧嘩するなんて珍しかったからね」
「その時、先生が教えてくれましたよね、相手が大人数だったり、大きい時の戦い方を、それを今使う時です」
「通用するのか、一ノ瀬大地に」
北岡は笑って応えた。
「勝ちますよ、俺には勝たないといけない理由があります、応援してくれているみんなの為にも」
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