第207話 決意

 左ジャブを頭をずらし回避、右の返しのストレートは左腕でブロック。


 一ノ瀬の3打目は、顎を狙ったアッパーだが、それは難なく回避、只のアッパーだったが、何人かの選手は違和感を感じた。


 通常ならばボディの方が確実に当てることが出来るし、あのタイミングでのアッパーはフェイント、体格差のある相手では有効だが、一ノ瀬の体格を考えれば意味がある事には、思えなかったからだ。



 違和感の答えを知るのは、石森とそれをよく知る櫂と石森の対戦岩田だけであった。


 「あの動き、お前のコピーだな」


 櫂は、石森に伝えた。


 確かに、動きは石森のそれであったが、質はそこまでであった。

 真似るなら、岩田の方が良かったのだが、一ノ瀬は勝った者の石森を容易に真似る事とした。


 石森のコピーだが、動きはワンテンポ遅いため、北村は容易に回避をしていく。

 コーナーに追い詰められるが、問題はないが、実際問題、ラウンド制ではないので、時間でこの攻撃を止める事は出来ない。


 (カウンターを合わせるのは容易、しかし、カウンターを学習される、嫌、もう、他の試合でカウンターを学習しているのか)


 北岡は全ての試合を完全に見て覚えている理由ではない為、一ノ瀬が何を物にしているかは、分からない、しかし、迷っている事も出来ない。


 一ノ瀬の右ストレートを半身で避け、右膝を一ノ瀬のみぞおちに打ち込む、並の人間ならダウンを避けられない完璧なカウンター、しかし、一ノ瀬は動きを止めるだけ、北岡はダメ押しの左ストレートを顔面に叩き込む。


 流石に後によろける一ノ瀬だが、ダウンはしない、それどころか、顔を擦り白い歯を見せる。


 「化け物か」


 北岡は心の声が漏れる。


 それと、同時に一つ心の中で気持ちが決まる。


 追い詰められていたコーナーは、自身のコーナー、北岡は視線はそのままにセコンドに伝える。


 「出しも惜しみで勝てる相手じゃありません、技をコピーされなくても、他の試合を観ても使えるんなら、この戦術じゃ駄目です」


 「勝ち上がる為、優勝する為、皆の希望になる為、こっちも本気を出させてもらう」


 北岡の表情が変わる、それに櫂は笑みを浮かべる。


 (俺と引き分けた男だ、ここで終わる理由はないよな、あの、時から暫くたったが、あの時より強くなってると信じてるぜ)



 

 

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