第206話 ノイズ
左右のローキックで試合を組み立てる北岡に対して、一ノ瀬は打つ手がないように見えた。
北岡は、ローを打った後直ぐ様、その場から離れ、一ノ瀬の返しは、単純な単発のフック、届く事はなかった。
一ノ瀬は、一気に攻めたてる事はしなかった、理由の一つは体格差で勝っており、打たれ強い彼にとって、単純なローキックを気にしている様子はなかった。
触れるのは、北岡と左右の甲と一ノ瀬の太腿のみ、展開の無い戦いに期待をしていた観客は次第に焦れて来ていた。
「つまんねーぞ」
「真面目に戦え」
観客の罵声やブーイングが会場に包まれ。
高度なテクニックを理解できない観客には単純な展開に見え、また、一ノ瀬という喧嘩屋に期待している観客の一部は、荒れている者が多く、暴言はその者達だ。
北岡には、その雑音は聞こえない。
ただ目の前の一ノ瀬にのみ集中し、ローキックを繰り出し、攻撃を回避する。
3分を過ぎた頃に、事態は変わってくる、蹴られていた一ノ瀬は、変わらず、北岡の方が疲労が出てきていた。
普段、ラウンドで戦っている選手にとっては、このバベルに置いてスタミナの調整は必要な行動であった。
それは、石森も北岡の疲れを見てとった。
「練習と実戦じゃ疲れが変わってくる、それを意識できていたかどうかだな」
「あの北岡がそれを意識してないとは、思っていたが」
櫂と石森は次の展開に注視する。
(服の上からの打撃がこうもやりづらいとは)
北岡は、少し疲れを感じつつも、同じタイミングでローキックを繰り返していくが、一旦、距離を置いて大きく息を吸う。
一ノ瀬からは、笑みが消えていた。
それは、痛みではなく、北岡のスタイルに苛つきを覚えていたからだ。
(案外つまらない戦い方をするんだな)
一ノ瀬は、興味を失ったのか、ボクシングスタイルで構えた。
自重を感じさせてない、軽やかなフットワークにサモ・ハンも目を見開く。
一気に間を詰めての左ジャブからの右ストレート
それは、北岡は面を食らったがなんとか回避し、距離を取る。
しまった。
サモ・ハンは、一ノ瀬のコピー能力は相対した者だけだと思っていたが、実際は見た者をコピーする事を理解した。
ボクシングスタイルは、岩田と石森からコピー。
「北さん、一ノ瀬は、ボクシングも使える」
再度、距離を詰め寄る一ノ瀬、前蹴りで突き放そうとするが、思考にノイズが走る。
(使う技は基本のジャブとローキックのみ)
一瞬の隙が、勝敗を決する戦いの場で、北岡は遅れをとってしまった。
一ノ瀬の攻撃が、北岡に迫る。
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