1回戦 第8試合

第204話 試合前

 「思いの外試合の決着は、タオル投入による棄権が多い気がしますね」


 前田は、秦王に話かける。


 今までの7試合中、5試合はタオル投入による棄権、ノックアウトは2試合のみであった。


 「予想通りだ、1回戦はそうなると思っていた」


 「1日に2試合やるんだ、もし、ダメージ的に連戦不能と感じれば棄権するのは、セコンドの考える事だからな」


 「次が第1試合の最終試合ですね、これで八強が揃います」




 花道から、北岡兵衛が入場してくる。


 マンバンヘアで、無精髭ながら整った顔、上半身裸で引き締まった肉体、トランクスから覗く脚の筋肉もはち切れないって感じであった。


 しかし、その肉体よりも目に入るのは、その右腕であった。


 右腕は、肘から上は欠損しており、今までの色々なトーナメント参加者を観てきた観客も、片腕の選手知ってはいても、その姿に、驚きを隠せない様子だった。


 「キタオカー」

 「センパーイ」

 「頑張ってー」


 観客の中から、北岡に声援が送られる、地元から応援に駆けつた応援団が、北岡の背中を押す。


 北岡は声の聞こえた方向を見て、手を上げ、笑みで応える。


 「普段通りで勝てるよ」


 セコンドのサモ・ハンも、北岡に声をかけ、背中を叩く。


 「ありがとうございます」


 左手はグローブを着けているが、右腕(正確には右肘)は、そのままテーピングが巻かれているだけであった。


 組技には対応するのは、他の選手よりもハードルが高く思えた。


 ロープの間をくぐり、リングの中に入る、リングはいつも戦っているリングより広く感じ、軽くリングの中を小走りで広さを確認する。


 その時、反対側の花道から男が入場してくる。


 一ノ瀬大地、北岡の1回戦の相手であった。


 長髪に長めの顔、白のガウンを羽織り赤のパンタロンを着用、手は、オープンフィンガーグローブを着用している、『喧嘩屋』、一ノ瀬が始めて表舞台に立つが、口元は緩み白い歯が見えていた。


 緊張感のないこの男、直ぐにリングにあがると、簡単な柔軟でゴングを待つ。



 2人の視線が重なった瞬間、1回戦最後の試合のゴングが打ちならされた。

 

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