第202話 覇極道

 会場が息を飲み、向かい会う2人を見守る。


 先程まで手を出していた山本は反対にガードを固め、上総介は守りを解いて拳を握り、その一撃にかける。


 「お前の負けは今確定したぞ」


 上総介は呟き、左足を一歩地面を強く踏み込む、腰を回転させ、右腕を真っ直ぐ山本の十字に重ねた腕に対して放った。


 大きな衝撃音が会場を包んだ。

 右正拳突きは、山本の防御している腕に当たっていた。


 「覇道流奥義、覇極道」


 芽郁は、正拳突きの名を呟いた。


 山本の思惑通り、渾身の一撃を出させた、攻撃の後の隙も見つけ、上総介の腕もまだ自分の間合いにある『取れば締め、組めば折る』しかし、山本は動けなかった。


 上総介の突きの攻撃力は、山本の想像を遥かに声、腕の骨にヒビを入れた。


 骨を砕いた上総介の拳は、またしても無傷。


 覇道上総介は、自分の実力不足を知っていた、武田のように体格に優れ全体的に技の威力が高く、経験がある訳ではない、また上杉のように技の連係や冷静な判断力がある訳ではない、型の美しさや技に対する解釈、意識も妻芽郁の方が勝っている。


 だが、館長として立つに値する武器を上総介は空手を始めてからずっと磨いていた、それは、拳だ。


 毎日毎日、自分の拳を大木に打ち込み、拳を潰しながら強化していった。


 砕けない拳、それが最大の武器だ。



 山本は、その場に跪く、腕の痛みが骨を砕かれた事を理解した。


 今また、あの正拳突きが来たら死ぬ、山本は背筋に寒気が走った、しかし、拳の変わりに再度上総介は提案する。


 「今度こそ、終わりだろう、流石にこれ以上は意味がない」


 山本は、このダメージでも終われない事を知っている、足技で戦い、足も砕かれたら噛みついてでも戦わないといけない、それが生命をかける地下格闘家だからだ。


 だが、その思いとは裏腹に、試合の決着は呆気ない形で終わりを迎える。

 牛山がタオルを投げ試合続行を放棄したからだ。


 その行為に一番驚いたのは、山本であった、まだやれる事を牛山に言うが、牛山は首を振り終わりを告げる。


1回戦第6試合

 山本 渦 対 覇道 上総介

 勝者 覇道 上総介


 タオル投入によるギブアップ。




 


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