第195話 鏡
一之瀬の控室では、独特な空気が流れていた、丹波は不味いことになったと、怪我で済めば良いが、下手して自分の兄貴分に迷惑をかけてしまえば立場が無くなってしまう、丹波は後悔していた。
そんな心配を他所に、一之瀬は黒服の中から一番体格の良い男1人を指名し、名前を聞いた。
「熊谷といいます、俺は格闘技経験はありませんが」
熊谷は、少し動揺していたが、一之瀬は問題ないと伝え、一歩前に出るように指示する。
緊張感が場を包む、神田は緊張感をほぐすように全体に言う。
「心配するな、ただのデモンストレーション、準備運動だ、熊谷って言ったな、全身に力を入れて防御しておけ、後は何もしなくていい」
熊谷は体重が100近くあり、緊張感で既に汗ばんでいた。
「じゃあ、神田さん、リクエストありますか」
長髪の頭を描きながら、気だるそうに、神田に話しかける。
「そうだな、せっかくなら、『修羅のあれ』がわかりやすいんじゃないか」
一之瀬は、笑みを浮かべ構えた。
腰を大きく落とし、両の手を後ろ手、自身の右腰のあたりに回した、天外が試合で見せた虎殺掌の構えだ。
「いくぜ」
その言葉と同時に、熊谷の身体に近寄り、先程の中継の様に、先ずは右肘で水月に打ち込む、右肘を左腕で押し込みより威力を増やす。
ガードをしているのはいえ、熊谷は苦悶の表情を見せる。
一之瀬は止まらずに、右腕で急所を軽く打つ、流石にココは全力で打つつもりはなく、最後の左正拳突きも目の前で止めた。
素人目には完璧に、修羅の技を行ったように見え、丹波は混乱していた。
「一之瀬は、修羅なのですか」
その問いに神田は答える。
「一之瀬は喧嘩屋だ、修羅とはなんの関係もない、喧嘩屋」
「でも、今の技、さっきの試合で」
「一之瀬大地、こいつは、天才だ、一回見た技は鏡に映したようにコピー出来る、打撃でも投げでもな、投げや締めの精度は基本、6〜7割程度だが、打撃ならほぼ完璧だ」
「そんな、じゃあ、今まで戦って来た相手の技を全部覚えてるんですか」
「なら良かったんだか、覚えて使えるのは二、三日で忘れちゃうんだよ、こいつ、まったく頭がいいんだが、悪いんだが」
一之瀬は膝をついていた熊谷に手を貸して立ち上がるのを手伝う。
「問題ないでしょ、相手が、強ければそれだけ俺も、強くなるんだし」
体格差で圧倒されなければ一之瀬に負けはないと神田は考えており、一之瀬のジョーカーは、横綱と一撃で致命傷を与える鏡花や天外だと思っていた。
幸運にも、その相手とはブロックが違う、それに、最終試合、戦う前に、技をパクれるのかなり運が良いと思っていた。
「相手から搾取する事を生業とする俺達にこの男の戦い方、どうだ、丹波これでも、俺達の代表に相応しくないか」
その言葉と同時に、テレビから試合開始の合図と歓声が聞こえた。
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