第194話 試合前
覇道上総介と山本渦は、お互いのコーナーに立っている。
山本は、上半身裸に黒のハーフパンツ、拳はそのままに手首だけ赤いテーピングで固められている、打撃専門のむき出しの拳、それはバベルトーナメントにおいても目を見張る物であった。
上総介は、空手着に身を包み、黒帯を締め直す、上総介の拳もまたむき出し、山本を意識してではなく初めから決めていた。
上総介は、一応し、ゆっくりと演武を初めた、初めから演武の時間をもらっており、それを秦王は了解していた。
─控室、一之瀬大地─
黒服の男達は、部屋の中心にいる一之瀬とセコンドの神田を囲む様に立っている、一之瀬は置いてあったリンゴを頬張り、中継を観ていた。
「大丈夫なんでしょうか」
黒服は、神田の組の一人の、神田に対して少し萎縮しながら声をかける。
「なんの話だ、なんの大丈夫なんだ」
神田は、腰掛けながら、顔だけ男に向ける。
「いえ、このトーナメント、金メダリストに伝説の格闘家、囚人までいます、俺達の組の代表が喧嘩屋で大丈夫なのかと」
神田は、調子を変える事なく男に問う。
「代表が喧嘩屋じゃ問題って事か、あまり見ない顔だな、お前名前は」
「丹波といいます、普段は山上さんの所でお世話になってます」
神田は、山上という名前を聞いて、質問の意味を理解した、今回のトーナメントでは、組として、一之瀬と山上が目をかけている選手がいた、その選手は元修斗の国内王者で、素行の悪さから裏の社会に流れてきた、その者の方が相応しいのではないかと言いたいのかと。
「山上のお抱えの元修斗王者、名前は忘れたが、そいつが一之瀬よりも相応しい、そう言いたいのか」
丹波は、神田の言葉に不味いと思い、直ぐに訂正したが、神田は気にしていない様子だった。
「一之瀬、こいつは、お前の強さに疑問を持っているそうだぞ、組の代表には相応しくないそうだ」
一之瀬は、興味なく相槌を打つ。
「一之瀬、少しお前の強さを見せてくれないか、試合も次だ、ウォーミングアップも必要だろ」
「いやですよ、今日は2回戦うんでしょ、ただでさえ、疲れるですから」
神田は、無言で財布から一万円札をだし、それを3枚テーブルに置いた。
「3分だけだ、問題ないだろ」
一之瀬は、テーブルのお金を手に取り、笑顔を見せる。
「神田さんの頼みなら、仕方ないですね」
丹波は、自分の言葉でとんでもない事になったと後悔した。
中継は、まだ上総介の演武が続いていた。
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