1回戦 第7試合

第193話 道

 山本渦はリングの上から、後入場者の覇道上総介を見て戦力差と上総介の事を考えていた。


 山本は、疑問であった平和な国に生まれ、何故わざわざ危険に身をおき、人と争う道を選んだのか、それを生業としている事に。


 (俺にはこれしかなかった、選択する事も辞めることも出来ない)


 試合前に、山本の母は生涯を終えたが、その事を山本は知る事はなかった、最後会った日を今生の別れと思っていた山本として、それ程重要ではなかった、なるべくしてなった事だと。



 セコンドの牛山からも、この一戦の重要さを何度も言われた、レッドアイが本命であり、タイクーンこと山本は保険であった。


 「負ける事は許されんぞ」


 セコンドの牛山は、山本に再度声をかける。


 牛山は、前田から、リードの動きを知り、また、この一戦の負けるようでは、身の振り方考えないといけない局面に立たされることになる。

 

 タイクーンには、関係ない事だが、負ける事は死と同義、タイクーンはこの一戦に命をかける事に変わりはない。



 覚悟を決めた男がいる、そのリングに、覇道上総介が向う。

 

 世間一般には、過去の流派、2代目、正確には、3代目にあたる上総介は、これが初公式戦となる。


 世間、格闘関係者からの目は冷ややかだった、身長も165センチと決して高くなく、強さには懐疑的であり、初代の内弟子の上杉、武田が出るべきだと言う声を少くなかった。


 控室で櫂は関係者の武田に問いかけていた。

 「なんで、あんたや上杉じゃなく3代目がこの大会出たんだ、なんでもありなら、間違いなく覇道流最強はあんただと思ってるんだが」


 「この大会は、若で間違いない」

 櫂の疑問ももっともで、武田は答え、そして、石森がその根拠を予想する。

 「看板を背負っての戦い、その覚悟は伊達じゃないって訳か」


 過去は、百万人を超えると言われた覇道流の館長、現在はその十分の一もいない覇道流だが、上総介にも意地がある。

 石森はそう感じていた。

 

 (俺もボクシングの代表では出ているが、ボクシングのトップとして背負っては戦ってはいない、自分が負ける事が流派の敗北となる戦い、俺には想像は出来んな)


 上総介の半歩後に、妻の芽郁、上杉が側にいる。


 リングに上る前に、3名が向かい合い、押忍と挨拶を交わし、上総介はリングを睨む。

 上総介は呟く。


 「この道から、新しい覇道の道が始まる」


 上総介はそう芽郁に伝え、リングに上がった。


 

 

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