第189話 一撃

 刃は、全身に力を込める、そして、素早く距離を縮める、お互い攻撃が活かせない距離。

 モードには組み技もあるが、今片手が使えないのだ、攻撃の手を選択するのには、タイムラグがある、それは、今行っている繋ぎの打撃でもわかる。


 (頭が良いのも考えもの、とっさの行動に選択肢が多すぎて隙だらさぁ)


 刃は、頭突きでモードの身体をかち上げる。

 もろに食らうがダメージは薄い、問題ない、刃の狙いは次にある。


 左の拳を強く握りしめる。

 呼吸を整える、空手は全身を武器とする、利き手ではなくとも、一撃必倒、刃はみぞおちに向かい正拳突きを繰り出す。



 鈍い音と共にモードの身体は後方に勢いよく吹き飛ばされる。


 そして、強く地面に叩きつけられる。


 違和感を覚えたのは、刃、技の威力よりもあまりには遠くに飛び過ぎている。


 (ダメージを逃がすために自分から飛んだ)


 櫂は直ぐに気づき思わず、叫んだ。


 「まだ、決まってないぞ、油断するな」


 決まってはない、しかし、優先は変わらない、そう思い、追撃にでる、ワイヤーも解けた勝ちの流れは変わらない。


 モードは、倒れたまま、胸のポケットに手を入れるが、刃は問題ないと判断、どんな武器であれ、使いこなせる体勢でもなければ、ダメージもあるのだから、しかし、取り出した物に脚が止まる。


 モードが取り出したのは、日本では見ることのない物、『拳銃』が握られていた。


 咄嗟に頭を守るが、それと同時に鍛えたとはいえ、銃弾を防げるのかとも思う。


 小さい破裂音と共に、銃弾が刃の脚を打ち込まれる、痛みはあるが、思った程ではない。


 (ガスガンか)


 子供騙しを、そう思い、睨みつけるが、見えるのはモードの背中。


 モードのガスガンはただの時間稼ぎ、一瞬の隙をつき選んだ行動は、闘争ではなく逃走。


 モードは、格闘家でもなければこれは試合ですらない、目的が達成出来ないのであれば、その選択肢は被害が少ない方を選ぶ。


 逃がす訳には、刃も駆けようとするが打たれた脚がもつれる。


 モードは、距離を離した隙に隠していたバイクに乗り込む。

 死角にあった為、バイクの存在に気づかなった櫂と刃。


 櫂は、拾った武器を投げようとしたが、それを行わなかった。


 (この距離で当てても意味がないな)


 刃もまた、無理な追跡を辞め、櫂に合流する。


 「任せろじゃなかったのか」

 櫂は冗談で茶化す。

 「だな、あれはけっこうデージな奴だったな」


 「俺は関係ないが、逃がして問題ないのか」

 「わからん、俺の役割は守る事で捕まえる事じゃないし、この馬もどうしようかなって感じさぁ」

 

 櫂は、破れた服を気にして、その場を離れようとする。

 「俺はもう行く、俺の仕事は、セカンドだから、そっちの揉め事はそっちで処理してくれ」


 「ニフェーデービル(ありがとう)、アンタがセコンドなら、結構いい線いくんじゃないか」


 櫂は、背中越しで手を上げて応える。

 

 

 「」



 


 

 

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