第186話 ローキック
櫂と刃は、並んで立っていたが、少しずつ離れる様に距離を取る。
仕掛けるは、自分達からと櫂と刃は考えていた。
実際時間を稼げば良いだけだから、攻めずに守っても任務完了なのだが、もうそのつもりはない。
刃は借りを返したいし、櫂もあまり時間はない。
動き出したのは刃、真っ直ぐモードに駆け出す。
ホースは、あえて止めずに見逃す、目の前の相手から目線を切れば終わる事は本能でわかっていたからだ。
櫂もまた、仕掛ける。
右のインロー、ホースの右内ももを狙う、その軌道、ホースは勝ちを確信する。
(馬鹿が、脚にはレッグガードで固めている、金属バットでプロの選手のフルスイングでない限りは俺はビクともせん)
衣類の上からは確認し辛いが、ホースの脚は固められている。
下段蹴りが効かないで焦る隙で電撃ショック、そこで怯ませてから、グラウンドで上からパウンドで終わり、そう思った瞬間、自分の身体右脚の力が無くなるのに気づいた。
(馬鹿な)
ホースは何が起きたかわからなかった。
櫂の下段蹴りの狙いは、太ももではなく、膝の関節にあった、蹴りの初動作でホースがカットする動きも避ける動きもせずに、受けを選んだ事で、『ローキック』一発で終わらせる事に変更した。
脚に何か仕込んでいるから、受けを選ぶ、動かない的にピンポイントで骨と骨を繋ぐ部分を砕く事は、櫂には造作ない事であった。
ホースは、右膝の激痛に身体が歪む、その光景を見て櫂は冷めた視線を送る。
(惨めだな、くだらない道具に頼らなければ、弱くはないはずなんだろうが)
ホースは、よろめきながら、覆いかぶさるようなに櫂に近づく、組み付きさえすれば目方での差で有利に運べるとまだ思っていたからだ。
その考えを読み取り、櫂は、苛つき右の肘をホースの喉仏に打ち込む。
鈍い音を立て、肘は喉にめり込む。
その一撃は、ホースの意識を完全に別の世界へといざなった。
ホースは無意識の中、櫂のシャツを掴み、倒れ込みながら、シャツを破いていく。
櫂は、倒れたホースに一言いいはなつ。
「戦いに美学がない奴が俺の相手になる理由ないだろ、顔を洗って出直してこい」
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