第178話 決着 後編

 (勝つためじゃない、俺は壊す事を考え目を潰してしまった、守る合気で勝つ事をより壊す事を優先してしまった)


 目の前の相手に集中すら出来ていない。


 反対に鞍馬は、ボロボロになりながらも、真っすぐ工藤を捉えた。

 歩みは、遅くゆったりだ。


 「パパ、もうやめて」


 あんりは、叫ぶが歓声でかき消される。

 その声が聞こえるのは、近くにいた七ハのみ。


 「また、パパがいなくなるのはいや」


 その言葉に違和感を覚え、七ハはあんりに声をかける。

 「今『また』といったか」


 七ハは、以前聞いていた、血の繋がりの無い娘を育てている事、その娘には前の両親の記憶が無いと聞いていた。

 興味は無かったが、頭に入っていた。


 あんりは、黙ったままだ。


 「もしかしたら、前の事も覚えているのか」


 あんりは黙って頷く。


 「なんで、黙ってたんだ」

 七ハは、視線を合せて、優しく訊ねた。


 「だって、言ったらパパいなくなるとおもったから、前のパパとママもいなくなった、もし、つよいパパならもうどこにもいかないとおもって」


 めちゃくちゃだなと思いながらも、七ハは少し理解した。

 弱いから死んだとなら、強いなら死なないと思うのは子供なら仕方ないかもしれない。


 (俺の見立てだと、もう勝てるんだが)


 あんりは泣きながら訴える。

 「パパ死んじゃう、またいなくなる」


 七ハは、パパは好きかとあんりに聞き、あんりは泣きながら頷く。


 チーホイの子として負ける事は、配慮されえも、試合を棄権すれば、タダではすまない、だが、この気持ちを無視する事は出来なかった。


 親を思う子の気持ち


 七ハは、 タオルを握りしめ、そして、タオルをリングに投げいれる。

 そのタオルは、工藤と鞍馬の間に落ちる。


 鞍馬は振り返ると、涙を流す娘あんりの顔が見え、七ハは、首を振り肩を竦める。


 

 1回戦第6試合

 鞍馬 一仁 対 工藤 純

 勝者 工藤 純


 タオル投入によるギブアップ




 

 

 

 

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