第177話 決着 前編

 まるで、生きる屍の様に、歩みよる二人、このまま両者倒れ込むかの様であった、しかし、全く予想とは違う光景が広がる。


 お互い間に入った瞬間、さっきまでとは、想像出来ない動きを二人が取る。



 鞍馬の動きが早かった、しかし、工藤の攻撃は大振りの鞍馬より速く最短距離で鞍馬に襲い掛かる。


 工藤からの攻撃は無いとはずだった、理由は簡単だ、合気道という以前に工藤の体格で鞍馬を打撃でどうこうできる筈はなく、また、相打ちでも鞍馬が勝てるのだ、リスクしかない筈の工藤からの打撃はない。



 しかし、工藤か仕掛けたのは、只の打撃ではなかった。


 

 工藤は、右手人差し指を立てて、鞍馬の右目突き、そのまま目を潰す。


 その凄惨な光景に観客から悲鳴が漏れる。

 

 そして、そのまま眼窩に指を引っ掛けて、頭を地面に引き寄せ、引き寄せた頭に、工藤は鞍馬の顎の蝶番に左膝を打ち込む。


 一撃で倒すでなく、あえて削る戦い。


 嫌、倒す事でよりも壊す事を目的とした攻撃。


 ふらつく、鞍馬は無理矢理腕を振り反撃するが、工藤は難なくとらえる。


 しかし、投げにはいけない、鞍馬の攻撃に勢いがなく、その相手の力を利用する事が出来なかったからだ、だが、関節に取ることはできる。


 関節に取られる前に、鞍馬は咄嗟に頭突きで工藤の額を打ちつける。



 鞍馬は顎が外れ、目からも出血、腕の骨も外れている、そして、工藤は額が割れ出血していた。



 「パパ」

 父鞍馬の姿見て思わず、娘のあんりは、大声で声をかける、目には涙が溜まっていた。


 呼びかけに鞍馬は顔の向きは変えず、笑みを浮かべる。


 先程とは違う雰囲気に、薬の効果が切れた事を薬を使った事に気づいていた選手の程が知る事となる。


 そして、薬の効果が切れた鞍馬同様、工藤の方も『無意識の意識』が切れ通常の工藤純に戻り、精神的にも肉体的にも限界を超えている事は見て取れた。


 

 (額の出血が功をなした、顎を外れ、右目、右手が使えなくても押さえこめば勝てる)

 七ハは、薬の効果が切れて、鞍馬のダメージを見てもこちらが優勢と考えた。


 「鞍馬のオッサン、ほぼ勝ち確定だ、ゆっくり近づいて抑え込め、上からの圧力だけでも、そいつに返す体力はもうない」



 七ハは、判断は正しく、工藤にはよもや予備のスタミナも集中もなかった。


 工藤は少しでも、回復する事を考えるべきであったが、頭の中は、無意識に目を突いたことへの、心の淀みのような感覚に支配されている。




 

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