第176話 無意識の中で



 工藤は、半分消えかける意識で、昔の事を思い出すそれは、半年前、純と梓が、梓の父が亡くなって初めて実家に足を運んだ時の事であった。


 梓の父は、宗一の息子にあたり、梓の面倒を見ていたのは、宗一の弟の宗二であった事を梓は父の死後に知る事となった。


 

 首の骨を折り、結果命を落とした梓の父親、梓に取って父に対して特別な感情はなかった。

 育ての祖父が亡くなってからは、酒が増え酔って暴力を振る姿は梓に取って苦痛しかなかった。

 

 

 その事を乗り越えたのは純が側にいたからだ。


 「結構、綺麗にしてたんだね」


 何も無い部屋に気を使って純が口を開いた。


 「『あの人』が何でも壊すから家に物もなくなるんだよ、だから片付けは楽かも」



 軽口をたたきながら、2人が掃除をしていると、押入れの中から隠すように一つの木箱を見つけた。

 金目の物はもう無い事は知っていたが、初めてみたその箱に興味を奪われた。


 「これ、知ってる」

 「わかんない、初めてみる」


 箱の中には、古い便箋と新し目のメモ、そして一冊の古書が出てきた。

 古書には、『赤井流合気道』と記されていた。


 梓は、古い便箋を開く。


 それは、祖父が記した物だった。



 私、赤井宗二と兄宗一が作り上げた武術、兄宗一の烈火の如く武と私達宗二の柳の様な柔を一つに合せてた、赤井流合気道。


 それは、夢幻であった、元々双子の私達兄弟が一人の男として生まれていたなら、武の完成はありえたかもしれん。


 宗一の子、昇龍も兄と似た気性の荒さ、私の『合気』を引き継げるはずもない、そして、その宗一の子は、女の子だ、全てを教えるには時間が足りなさ過ぎる、せめて私の合気だけでも、若い世代に引き継がなければならない。


 そして、誰かが一つの形にしてくれる事を願いこの赤井流の書を残す。




 簡単な文章、震えた文字は、祖父が溢れる感情を押し殺し記したものだろう。


 「おじいちゃん、凄い人だったんだ」

 「私も知らなかった」


 そして、もう一つのメモは、純が開く、先程の強い意志とは反して、そこには、恨み辛みが記されていた、それは梓の父だと想像できた。


 純と梓は、気持ちに蓋をするように、そのメモには触れなかった。


 「この本どうしたらいいかな」

 梓は、迷い純に聞くが、純の答えは決まっていた。

 「出来れば、俺は師匠であり、梓の育てのおじいちゃんの意志を引き継ぎたい、赤井流がどんな物なのかまだわからないけど、おじいちゃん達が始めた物を、俺とアズアズで完成させたい」


 

 そして、書をめくり、一文が目に入る。


 (無意識の中に意識をもち、意識の中に無意識を持つ)


 「どういう意味かな」


 その時は、二人は理解出来なかった。


 

 しかし、今、工藤はその感覚、書を読み習得の為に時間を費やし、触りの部分ではあったが理解していた。

 

 「無意識の中に」


 呟くように、鞍馬を視界に捉える、目に光はなく誰が見ても終わりを予感していた。


 一歩一歩、鞍馬が近づく。


 「無意識の中に、意識を、意識の中に無意識を」


 倒れ込むように、工藤もまた、一歩前に出る。


 




 

 

 


 

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