第175話 限界の時

 鞍馬の意識は混濁している。


 しかし、薬が抜けた訳では無い、ほんの少しの休息を経てまた身体は動きだそうとしていた。


 (まだだ)

 鞍馬は、意識は虚ろだが、戦いの意思はあった。


 

 工藤は、鞍馬の攻撃を警戒する、右手は折ったのだその意識は、左手のみに集中する。

 さっきまでの集中力はない、しかし、ゾーン状態出なくても1点集中ならばあの動きにも対応する自信はあった。


 打ってこい、そう思った瞬間。


 会場に大きな打撃音が響きわたる。


 工藤は、自分の身体が抜け地面に吸い込まれる感覚を体感する。

 脱力の後に、自分が殴られた事に痛みで気づく。


 (いつ、おれは)


 工藤を襲った攻撃は、意識していない所からの攻撃、鞍馬は折れた右腕を使い打ち下ろし気味に、工藤の右の顔面を完璧に捉えた。



 工藤の目は、生気を失い、身体からは力が抜けていく様子がとってみえる。


 鞍馬は、返す刀で左ストレートて再度顔面を捉え、工藤の身体はロープに吹き飛ばされ、身体はロープに絡みつくようにダウンを回避させた。


 「終わったな」


 試合を観ていた矢野は呟く、次の相手は鞍馬だと確信した。


 セコンドの梓も息を呑み、言葉もでなかった。

 

 「打点をズラせなかった、完璧に捉えられたな」


 石森も櫂に確認し、櫂も頷く、ダメージを流す事が得意と認識していたがあのインパクトは、小兵にはきついと櫂は判断した。


 「惜しかったな、少しでも右腕にも気をつけていれば直撃はなかったんだがな」


 試合を止めるには、セコンドのタオル投入が不可欠、ダウンをしていない工藤に鞍馬はゆっくりと歩み、追撃の姿勢を見せる。


 勝利は確実、選手の殆どはタオルを投入しないと工藤がより深手を負うことを心配した。


 しかし、梓はタオルを投入しなかった、正確には出来なかった。


 震える手と動悸を抑えるのに精一杯だった。



 工藤の指が微かに動く。


 (赤井流の境地見せる時)


 切れかかる意識に、工藤は意地で意識を保とうとしていた。


 お互い極限の中、最後の時が近づく。

 

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