第171話 セコンドのジレンマ

 「お父様は、このてんかいよんでいたんですか」


 阿修羅の大きく丸い瞳で父天外の顔を覗き込む、阿修羅は幼少の頃より、戦い事の英才教育を受け、自身を鍛える事も勿論だが、格闘術、他流派の話も良く聞かされていた。


 「工藤のセコンドの赤井の祖父、赤井流合気道の開祖の1人、赤井宗二」


 「俺がまだ若い頃に、立ち会った事がある、あっちは既に全盛期を超えていたが、父から伝言を受けていた『赤井流が挑んで来たら相手をすれ』とな」


 「どうなったんですか」


 「無敵の修羅が負ける訳はない、俺はてっきり赤井宗一の息子と死合うつもりだったが、開祖宗二だったとう訳だが、赤井流はまだ磨くべき所があったが、かなりいい線いっていた」


 「その赤井流が『かんぺき』になっておもてに出てきたということ」


 「そうは思えない、宗二は俺に負けた時に言っていた『後継者がいなく、赤井流合気道は、終わりだとこれからは、身を守る合気の継承、若い人の為に力を入れる』と」


 天外は、顎を擦りながら思案する。


(だが、赤井流の火は消えていない、その火は孫娘が絶やさず燃やしていたのか)



 天外と阿修羅が話している間にも、試合は進む、強い打撃でなくとも、何度も打たれると流石の鋼の肉体も綻びが見えてくる。


 顔には痣ができ、呼吸は粗くなる。

 誰が見ても劣勢だ。


 「上手いな、打撃は肺や腎臓を狙っている」


 比嘉も予想通りの強さにほくそ笑む。


 それとは、対象的に七八の顔はドンドンと曇っていく、勝てる試合だった、あの打撃で終わっても可笑しくなかったのに立ち上がりまた、そこから、試合をひっくり返そうとしている。


 (薬は予備用を含め二回分しかない、一度使えば2回戦の相手はあの矢野だ、対応した戦いをしてくるだろうし、主催者の比嘉の同行も読めない、試合前のドーピングは許しても、試合中のドーピングは止めるかもしれない)


 七八は、頭をフル回転させる、薬を使えば、ダメージを回復させ、痛みを感じずに攻め続ける事ができるが、意識は混濁しシンプルな攻め手しかできなくなるのだ、使い所を間違うと効果は期待できない。


 (どうする、俺の目的はトーナメントの優勝ではない、この薬の実績だ、いくらこの工藤という小僧が強くてもこいつに勝って、矢野に負けるならまったく意味がない)


 「パパ」

 後ろから、鞍馬の娘あんりの叫びが聞こえ、視線をリングに戻す、鞍馬は鼻が折られ出血していた。


 迷っている暇はない。


 その光景に、七八は気持ちを決めた。

 


 


 


 




 

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