第170話 合気の打撃
工藤が合気で鞍馬を投げるが、問題なく立ち上がり再度立ち上がり、向かってくる
工藤もそれを見て構えを取り迎え打つ、先ほどと一緒のように思えるが、先程と違うのが攻撃が繰り出される、『出始め』を捉え、攻撃の流れのまま相手を投げ飛ばす。
鞍馬は、自分から飛んでいる様に見える光景に、まるで打ち合わせをしているかの様。
合気道のよく見る映像、年老いた達人の周りを飛んでいく屈強の男達、嘘のような光景を、このバベルでみる事になるとは誰も思いもしなかった。
(冗談だろう)
全ての観客が同じ様に思っていた。
鞍馬はスタミナは削られていたが、問題ないと行った様子で向かっていく。
(ただ投げられても、俺は止まらない)
しかし、鞍馬の思惑通りには行かなかった。
工藤は、攻撃を止め投げる時に、身体を浮かされた鞍馬を右手で脇腹を打つ。
工藤は、追撃せず間を外す、鞍馬は顔を歪めるも直ぐに立ち上がりくらいつく、鞍馬の右のストレートを工藤は再度、出始めの攻撃を止める投げ、今度は顔面に左手で攻撃。
、工藤はオープンフィンガーグローブを着用しておらず、手首も固定していない、完全に素手であり、工藤の細腕で鞍馬の肉体を打てば自身の拳、手首を痛める恐れがあるその風貌から『打撃はない』皆がそう思っていた。
阿修羅は、工藤の打撃のカラクルをいち早く気づく、それは、同じまだ身体が成長途中でありながら自分の体格を超える相手にする為に覚えた技の一つであったからだ。
「弧拳」
その呟きは、聞こえていたかのように、同時に櫂もたどり着く。
「こけん」
石森は、櫂の呟きに聞き返す。
「空手、古流武術の打撃の一つだ、手首の骨での打撃、拳を使えば手首を痛める可能性があるから、手首で打撃を使うって訳だ」
「手首での打撃強いのか」
石森の問に櫂は首を振り、手を広げ、手首を曲げて構えをとる。
「弱くはないが、強いとも思えない、俺達近代格闘家として拳で殴った方が明らかに強い、確かに手首の硬い部分で上手く技を受け、そのまま反撃できるが、受け所が悪いと痛めるしな」
何度かそれを表すようなシャードをする櫂。
「相手が武器を持ってるなら、そのまま掴むってのもありだが、玄人同士の公式の試合じゃあまり意味はないと思っていた、今の今まではな」
櫂はモニターで工藤の動きを観て笑顔を見せる。
「弧拳なら、掌を広げ、相手を掴む事、合気で受け投げながら打撃を入れられる、対戦相手も打撃を警戒していない上に、崩されてからの無防備での打撃、あれなら細腕の工藤でも問題なくダメージを与えられるぜ」
ニヤつく櫂に石森は冷やかす。
「嬉しそうだな」
「まぁな、これで合点がいった、何故なんの実績もないこいつが比嘉が選んだのか、只の合気道家じゃなければ、ユーチューバーでもない」
その言葉の先は、続けなかったが、櫂自身、赤井流の創始者、宗一とは過去にあった事があった、その時には、宗一自身には感銘を受けたが、その流派には興味を感じなかった。
自分の求める強さとは違うと。
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