第168話 真価


 「表情が変わったな」

 「ああ、だがダメージはある、どう巻き返せす」


 櫂と石森は、立ち上がる工藤を観て、少し違和感を感じる。


 (表情だけじゃない、何か纏っている雰囲気も変わっている、まるで別人だな)


 立っても終わるだけだど周りの観客はそう思っていた。

 事実、工藤からの攻撃はほぼ無し、体格差もあり、ダメージも喰らっているのだ。


 「なぁ、櫂、合気道の強さの見解はお前の意見はどうなんだ」


 「格闘技としては、疑問だが、武術や相手を制圧する術と考えると有効な技だな、俺も一度手合わせした事ある」


 「どうだった」


 「残念だが、拍子抜けだったな、合気道が発揮されるのは素人喧嘩といった感じで、プロや試合といったらほぼ使えない、合気道でボクシングのジャブは捉えらないし、捌けんだろ」


 

 (立ったか)


 鞍馬のセコンドの七八は、唇を噛む、このまま問題なく試合を終われば、切り札を使う心配なく、『パワーだけの素人』の認識でメダリストと戦えるという有利が無くなる可能性を考えたからだ。


 「鞍馬、油断するなよ、一気に叩きのめせ、相手のダメージは大きいぞ」


 鞍馬は、軽く頷き、フットワークもないベタ足で間を詰める。


 工藤は手を下げ、ノーガード、棒立ちだ。


 構える気力も無いのか観客はそう思ったが、違った。

 

 工藤の目はまるでカメレオンの様に、鞍馬の全身を観察する。


 脚の動き、呼吸、構え、腕の動き、筋肉と間接をも読み取る様に。


 鞍馬の左ジャブは、ジャブの形になる前に素早く工藤は捕まえる。


 そのハンドスピードと打ち合わせをしたかの様な動きに、観客は目を丸くする。


 先程の再現の様に鞍馬の身体を回転させ、地面に叩きつける。

 

 威力は上がったが、柔らかいリングの上、やはり致命打にはならない。


 鞍馬は問題なく立ち上がる。

 

 しかし、本当に驚くのは、その次の展開からだった。


 

 

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